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花染めの民と呼ばれる彼らは、花を育て、その花弁から抽出した染料で染め物をする。多くの工房が立ち並び、それぞれが競い合うようにして技を磨き発展してきた。
ソウはもともと別の工房の子どもだったのだが、一度に両親を亡くし、工房も閉鎖を余儀なくされた。ひとり残された幼いソウを引き取ったのが、この工房の親方だったのだ。
幼いながらも手際よく親方の助手を務めるソウは、よく家の手伝いをしていたと見える。男手が増えたと、親方はソウを大層かわいがっていた。
ジュリカにいたっては工房の一人娘にも関わらず、染め物には携わっていない。才が無いのか、はたまた、やる気がないのか。今ではもっぱら、行商担当だ。
ジュリカが慎重に花々を避けてソウのもとへ駆け寄ると、二人のまわりはふんわりと花の芳香に包まれる。ソウは笑みをこぼしながら縮こませていた大きな体をのばした。
「ジュリカ、おかえり。街はどうだった?」
「ええ。今日も賑わっていたわ。あなたの染め物、評判だったわよ。もう春だものね。淡い色はみんな売れたわ」
ジュリカは前掛けのポケットに突っこんであったクッキー缶を取り出し、ソウの前で振って見せた。ジャラジャラと重たい音に二人顔を見合わせ、にんまりと笑う。
そしてずっしりと重たい缶をソウの胸元に押し付け、その首もとにぴょんと飛びついた。
「わ! 危ないだろ!」
「今日も大儲けよ! いつもありがと!」
兄弟のように育った幼馴染とはこんなものだ。そう思っているのはジュリカだけなのかもしれない。嗜めるような口調とは裏腹に、空いた方の腕は行き場を持て余している。いつからかソウは、ジュリカの肩を気軽に抱き返せなくなっていた。
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