花染めの民

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 ジュリカの帰りが遅くなることが多くなった。領主の息子と仕事終わりに度々会っているらしい。  初めのうちは街へ出た日だけだった逢瀬も、次第に増えていき、いよいよ母を前に報告があると言ってきた。  アサイにはもう、分かっていた。ジュリカが帰ってきたときから気付いていた。娘の左手の薬指には小さな宝石を一つ乗せた細身の指輪が光っていたのだ。 「彼、ついに、私に結婚を申し込んだのよ!」 「ほ、本当かい?」 「ええ。本当よ。母さんにも早く会いたいって。次の桜の時期に、結婚式を挙げるの。来年の今頃、私、花嫁になるのよ! 素敵だと思わない?」 「そんな、お前、職人の娘なんて領主さまはお許しになるのかい?」 「領主さまにも何度かお会いしたわ。私の出店に来てくださったの! 凄いでしょ? 私、はじめは領主さまだなんて知らなかったものだから、染め物を五枚も売りつけてしまったわよ」  コロコロと本当に楽しそうに笑うジュリカからは幸福が溢れかえっていた。
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