花染めの民

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 翌年、桜の頃。  ジュリカはまるで桜の妖精のようだった。 「おめでとう、ジュリカ。とてもきれいだよ」 「ソウ! ありがとう。とっても素敵だわ!」  ふんわりと大きく広がる裾を抱え、ジュリカはソウに飛びついた。  ソウはめまいを覚えたが、きっと抱き着かれた衝撃ではない。鼻孔をかすめるジュリカの香りに、気が遠くなっていく気がした。そんな酔い心地もつかの間、ジュリカのすぐ後ろには領主の息子、トレアが朗らかな笑顔で立っていた。 「花嫁衣裳のことでは苦労を掛けたね。おかげで、今日のジュリカは満開の桜も霞むような美しさだよ。ソウ。これからは兄さんと呼んでも?」 「……もちろんです」  ジュリカのさくら色の花嫁衣裳を作り上げるまでには、お互い骨を折った。仲間意識でもうまれているのだろう。領主の息子トレアはソウの肩にがっしりと手を回し強くその手を握った。  見事なまでにさくら色の花嫁衣裳。美しく幸せな娘、婿(トレア)息子(ソウ)の友情。これ以上無い幸福な風景に、アサイは一人、顔色を曇らせていた。  さくら色の花嫁衣裳をめぐっての紆余曲折は、ジュリカ達の里でも領主の息子の住む街でも周知のことだった。  だが、それ以外にもアサイとソウ、二人だけの秘密がある――。
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