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「おねーちゃん!」
振り返ると、一番に目に飛び込んだのは熊のぬいぐるみだった。それから私の目は、ぬいぐるみの向こう側から此方を覗く女の子の顔を捉える。
後ろにまとめた髪の毛をひょこっと揺らして、女の子は首を傾げていた。
「おねーちゃん、一人?」
「……そうだよ」
私は呟くように答えた。
女の子は、ふーん、と一言言った。そのまま去っていくかと思われたが、女の子はとんっと座り込んで、その小さな身体を私の方へ傾けた。
「えっ?」
「つるちゃんもいるー!」
「でも……ここにいても別に楽しくないよ?」
小高い丘の上、此処からは街の様子がよく窺える。私はいつもここで、冬の冷たい風を受けている。それだけだ。自分のいない街が動いていく様子を、ただぼんやりと眺めるしかない。
「じゃ! たのしいことしよ!」
すると女の子は、突然私の手を引いて、ぴょんぴょんと跳ね始めた。
「いこ!」
「待って……」
戸惑っていた。見ず知らずの女の子についていっていいのだろうか、私は――……
――ああ、そうだ。
別に、帰る場所も、心配してくれる人も、もういないんだった。
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