13人が本棚に入れています
本棚に追加
翌朝になり変わらない日常が今日も始まると溜息まじりに身支度を始めた俺の邪魔をするように鳴ったスマホに出ると課長からだった。
「植田君、朝早くに悪いね。朝イチで人事部長から話があるそうだ」
「わかりました。なるべく早く出社します」
「じゃあ、そういう事だから。会議室に直行で、よろしく」
返事をする前に切られた電話に舌打ちしながらスマホを鞄に投げ入れ手早く支度を済ませた俺は家を出た。
いつもより早く会社に着いた俺は会議室へ直行したが呼び出した人事部長はまだ出社していないようで仕方なく席に座って時間を潰す。
「やぁ、おはよう」
「おはようございます」
素早く立ち上がり一礼した俺は促されるまま席に座ったが時期外れな異動とも思えず何の用だと身構える。
「植田君、だったか。最近、何かあったかね?」
「質問の意図がわかり兼ねます。どういう意味でしょうか?」
「では、単刀直入に聞こう。女性への暴行に心当たりは?」
「いえ、ニュースなどで見聞きはしますが、無縁な話です」
──俺に何の関係がある?
「なるほど。では、これにも心当たりはないんだね?」
新たにファイルから取り出された写真に思わず目を背けそうになったが人事部長の意図が読めず直視した俺は瞬時に見た事を後悔した。
女だとひと目でわかる華奢な背中に隙間が見当たらないほどのアザや何をされてそうなったのか判別がつかない傷から滲み出ている鮮血が痛々しい。
全く心当たりはありませんと答えた自分の声が上擦っている自覚はあったが衝撃的な写真を見せられて動揺するなという方が無理がある。
──何なんだ……これは。
「植田君、はっきり言おう。君から暴行を受けたという報告があった」
「待って下さい!何かの間違い─「事実がどうであれ問題はそこじゃない」」
「それは……どういう……」
「このご時世、こんな話が取引先の耳に入ろうものなら我社の信用を失いかねない。先方は君を厳罰処分にすれば、警察沙汰にはしないと言っている。これがどういう意味かわかるね?」
最初のコメントを投稿しよう!