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満員電車に揺られながら昨晩の酒が三十路の体に残っているのかスッキリしない頭で窓の外を見たところで面白味のない見慣れたビル群の無機質さにうんざりするだけで数秒で飽きる。
幸か不幸かドア付近に立っている俺は馬鹿でかいスポーツバッグを背負った学生のお陰で時折バッグが背中にあたるがスペースが出来て普段よりも快適な通勤時間だ。
とはいえ停車の度に反動でスポーツバッグが背中を直撃し若干イラついたが下車駅に着いた電車から黙って降りる。
面倒事が嫌いな俺は野次馬には喜んでなるが揉め事や諍い事の当事者はご免だと波風を立てず無難に生きている。
改札を出て足早に通り過ぎる人の波に流されながら無駄な金と時間を掛けただけにしか見えないガラス張りのビルへと入る。
挨拶のやり取りを適当に済ませデスクに座りパソコンとモニターの電源を入れれば退屈な日常が始まるだけの毎日だが特に不満はない。
「おっ、今日も早いねぇ、植田」
朝から元気な同期の田中が声を掛けてきたが頷いて受け流す。
「そういや、昨日は大丈夫だったのか?」
──何の話だ?
「昨日?何かあったか?」
「おいおい、忘れたのか?新人の子、送ってったろ?」
「送った?誰をだ?」
「あっ、ほら、あの子。あそこの髪の長い子、覚えてないのか?」
田中が指を差す方を見ると髪の長い女子社員が目に入ったが記憶にない。
「俺は送ってないな。誰かと勘違いしてるんじゃないか?」
「いやいや、植田が──「田中君、ちょっと」」
話の途中で課長に呼ばれ不満顔の田中だったが嘘をついているとは思わないが俺は覚えていない。
飲み過ぎたかとも考えたが女子社員の名前も記憶にないのは何故だと自問自答するも覚えていないものは思い出せない。
──まぁいい、仕事に支障がなければ興味もない。
さしたる問題はないと気を取り直してパソコンに向かった俺は業務に追われるうちに新人の女子社員の話など忘れた。
「お疲れさーん」
「あぁ、お疲れ」
帰り支度を済ませビルを出た所で女子社員とぶつかりそうになり少し驚いたが時間を考えれば彼女も帰宅するのだろう。
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