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早紀は立ちあがって震える手で美瑠に電話をする。五回の呼び出し音の後、明るい声がした。早紀は言った。
「ねえ、トンネルに行くの考え直さない?」
「えー、楽しみにしてるんだよ。行くって言ったじゃない。嘘つきー」
嘘つきか。縫いぐるみを持っていかないのも、花を持って行かないのも、キャンプに行かないのも嘘。早紀は困った。
とぼとぼと家に帰る。仕方ない。キャンプは行こう。そうだ、家にあるクマの縫いぐるみを持って行こう。幼稚園から大事にしていたものだがしょうがない。
火曜日になった。今日も晴れだ。早紀はTシャツにデニムを穿いた。キャンプ道具を用意する。スマホの携帯用のバッテリーも忘れずにバッグに入れた。
八時になる十分前に美瑠が来た。美瑠も早紀と同じような服装だ。お母さん同士が挨拶をする。
車の後部座席に座って国道沿いの店を見た。段々と山道になってくる。右も左も山になった。木が茂っている。美瑠のお母さんはトンネルの脇の駐車場に車を停めた。
「着きましたよ。本当にこんなところでいいの?」
「うん、男子たちに言ってやるんだ。臆病じゃないって」
美瑠は笑いながら言う。早紀は暑いはずなのに寒くなってきた。やっぱり帰ったほうがいいんじゃ…。
「縫いぐるみ持って来てくれたんだね。ちょうだい」
トンネルから女の子の声が聞こえた。美瑠は気が付いていないようだ。お母さんに手を振っている。
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