嘘つき

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 電車が滑り込んで来た。早紀は降りる人を待って乗る。田舎だからがらがらだ。目の前に子供を連れた女の人が座っていた。まだ若い。トンネルで事故にあった人も三十代だったと聞いた。子供は小学校二年生。この世に未練があるんだろう。まだ彷徨ってるなんて。  家がある駅に着いた。改札を抜けて寂れた商店街を歩く。商店街といっても八百屋と魚屋、肉屋があるだけだ。早紀の家は駅から歩いて十五分だ。山稜に夕日が落ちていく。山の日暮れは早い。  家に入るとお母さんが洗濯物を早紀に渡した。 「これ、仕舞っておきなさいね」 「うん。ねえ、ゴールデンウイークにキャンプしてもいい?」 「いいですよ。誰と行くの?」 「美瑠。あの幽霊が出るトンネルの近くでやりたいって言ってるけど、私は他の場所がいいと思うの。川辺とか」  お母さんは驚いた顔をしたが川辺と聞いてほっと息をした。 「お父さんに車で連れてってもらいなさい。それにしても美瑠ちゃん、トンネルの近くがいいなんて度胸があるのね」 「男子にバカにされたくないんだって」  早紀はそう言って洗濯物を持った。学校のワイシャツとTシャツに下着。洗剤のいい匂いがする。  二階に行って遣ることを遣る。部屋には三十センチくらいの茶色いクマの縫いぐるみが置いてある。ベッドの横のカラーボックスの上だ。気のせいか位置が変わっている気がする。早紀は縫いぐるみを持ち上げて話しかけた。 「ただいまー。来週はゴールデンウイークだから出掛けてくるね。お留守番よろしくね」  すると小さな女の子の声がした。 「やだ、やだ、クマさんも連れて来てよ」  間違いない。小さな子供の声だ。だがここは二階だ。きっと気のせいだろう。早紀はそう思ってベッドに座った。
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