嘘つき

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 お母さんの手によって卵豆腐がテーブルに二つ置かれた。早紀の分だろう。部活をしたのでお腹が空いている。スプーンを手に持った。 「美味しそう。私も食べたい」  また子供の声が聞こえた。気のせいだろうが怖い。早紀はお父さんに訊いた。 「幽霊が出るトンネルあるでしょ?あそこで事故があったの何年くらい前なの?」 「六年になるかな。悲惨な事故だったよ。お母さんの方は即死だったそうだが子供は何日か意識があったんだそうだ。お母さんが庇うようにしてたらしいからね。幽霊が出るなんて言われてるが死んだ当人は可哀そうだよ」  早紀は眉を下げた。お父さんの言う通りだ。怖がったらいけない。キャンプに行ってみようか。花と縫いぐるみを持って行ってあげよう。  夕飯を食べてお風呂に入った。入浴剤がいい匂いで気持ちいい。ふと長い毛が浮いてるのに気が付いた。お母さんも早紀もショートカットだ。早紀は背筋に悪寒が走って桶で髪の毛を掬った。排水口に円を描くように髪の毛が流れていく。 「早くトンネルに来て。縫いぐるみ持って来てね。あのクマさんがいい」  この声は何処から聞こえるんだろう。美瑠が悪戯をしているのか。随分手が込んでいる。後で電話して文句を言おう。早紀は頭を洗った。ふふふと笑い声が聞こえた。
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