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十一時に家を出た。お父さんの白いセダンの後部座席に乗る。お母さんは助手席だ。仕事のときには着ない、ベージュのロングワンピースを着ている。早紀はポロシャツにギンガムチェックのスカートだ。これから行くデパートで去年買った。今年は何を買おうか。そう思っていたらお母さんが後ろを振り返った。
「そういえば早紀の学校の先生が薬局に来たよ」
お母さんの働く薬局は精神科の病人がよく行く。きっと高校生相手でメンタルを壊したんだろう。
「どんな人だった?」
「個人情報は言えないけど、端正な顔の人」
お母さんはそう言ってにこりと笑う。そして続けて言った。
「買い物の前にお昼を食べちゃおうか?」
「うん、賛成。ハンバーグがいいな」
「私はいいですけど、お父さんは?」
「俺もそれでいいよ。国道沿いの店にしようか?今の時間なら待たないだろう」
そうお父さんが言ったとき車の前に猫が飛び出した。急停車する。ドンっと後ろの車がぶつかった。お父さんはハンドルを握りしめて振り返った。
「あー、猫のせいだ。参ったな」
早紀は車から降りて自分の家の車と後ろの車を見た。両方とも凹んでいる。お父さんは保険会社に電話を掛けた。いちおう警察を呼んだ方がいいと言われた。車を路肩に寄せる。
数分後、パトカーがやって来た。
「猫が飛び出して来たんです」
「それで緊急停車したんですね。でも、まあ、後ろの車も車間距離を取ってなかったみたいだし、保険に入ってらっしゃるんでしょう」
三十分くらい警察は居て帰って行った。走れないほどではなかったので事故車のまま家に帰った。ハンバーグもデパートもお預けになった。
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