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レモネード
店はお客さんで賑わっていた。
さっきまで気が動転していて周りに意識がいかなかったけど、よく見ると浜辺も海水浴に来た人達がちょこちょこいた。
「おじいちゃん、今暇ー?」
「どこが暇に見えるんだお前は。勝手にほっつき歩きおって。接客せんか!」
食事処のカウンター内で忙しそうに料理を提供しているオールバックのちょっと強面の方がルナにそう言い放った。
…いや、おじいちゃん若くない?50代半ばくらいじゃないか?
「ごめんごめん、あのさ、この人異世界から来たんだって!」
「えっ、いやいやちょっといきなりそんな紹介の仕方…」
俺は慌てた。
だが、それと同時におじいちゃんが動きを止めた。
「なんだと?」
ギロリと鋭い眼光をこちらに向けられる。
え、殺されるの?俺。
するとおじいちゃん…おじい様がゆっくり近づいてきた。
そして、何故か俺の目をじーっと覗き込む。
どうしたらいいかわからず、硬直状態の俺に言った。
「客人、詳しい話は後で伺いたい。少し落ち着くまでお待ち頂けるか。」
「あ、は、はい…」
俺は狼狽えながらも返事をした。
「リク、こっち座っていいよ。お腹すいてる?」
お店用のエプロンをいつの間にか身に付けたルナに、カウンター席の端に座らされた。
「いや、腹は減ってないかな」
「じゃあレモネード飲む?」
「レモネード?」
「うん。そっちの世界にはない?」
「いや、あるよ。でもいきなりレモネードを勧めるなんてアメリカっぽいな」
「よくわからないけど、ちょっと待っててね。うちのレモネード美味しいって評判なんだよ」
ルナは俺にウインクする。
本当、いちいち可愛いよなこの子。
自分の置かれた状況が飲み込めず不安だらけだけど、ルナを見ているとなんだか安心する。
「はい、お待たせ。おじいちゃん手伝ってくるから少し待っててね!」
そう言ってルナはそそくさと仕事に戻る。
目の前に無造作に置かれたレモネード。
黄金色に透き通って、外から差し込む日に照らされてキレイだった。
「あ、おいしい…」
一口飲んで俺は思わず声に出して言った。
すかさず二口目を口に含む。
甘くて少しすっぱくて、微炭酸が口の中で優しく弾けた。
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