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魔法
演奏を終えて、俺とルナはいつものように、夜の浜辺に佇んだ。
「ルナの歌詞すごく良かった。」
「ありがとう。リクへのラブレターだよ。」
「うん。照れるけど、すごく嬉しかった。何ていう曲名なの?」
「"ルリ"だよ。」
「ルリ…?あぁ、宝石の瑠璃?」
「うん。リクと僕の名前が1文字ずつ使われている宝石だよって、教えてくれたよね。いつか見てみたいなぁって思って、その名前にしたの。」
凪の海に月明かりが浮かぶ。
星が落ちてきそうな夜だった。
「魔法があったらいいのに。」
ルナが言った。
「魔法?」
「うん。この時間が永遠に続くような、そんな魔法があればいいのにって。」
ルナは、こっちを向いてニコッと笑う。
その笑顔は、悲しいほどに切なげだった。
「この世界に来れたこと、ルナに出会えたこと、もしかしたらそれが魔法だったのかもしれないね。この時間がずっと続けばいい。俺もそう想うよ、ルナ。」
言葉にしたら涙がまた溢れそうになって、俺は上を向いた。
すると、ルナがそっと俺の後ろ側に回り、コツンと頭を俺の背中に乗せた。
「リクの背中って、なんだか儚く見えるね。強くてしなやかで、だけど触れると壊れてしまいそうな気持ちになる。」
ルナはそう言うと、俺の体に細い手を回し、ぎゅっと強く抱きしめた。
「…行かないで…」
「ルナ…」
「行かないでよぉ!リク…リクぅ…」
ルナの涙声が背中から聞こえた。
ルナの涙が俺の背を濡らす。
ルナ、ずっと気丈に堪えていたんだ。
わかっていたよ。
俺が元の世界に帰ることを受け入れようと、一生懸命我慢してくれていたんだよね。
「ルナ。離れたくない。側にいたい。側にいたいよ…!ルナぁ…!」
俺ももう堪えきれなかった。
堰を切ったように大粒の涙がポロポロと零れ始める。
止まらない。
「リク…!リク…!! 」
「ルナ!ルナ…!!」
俺達は名前を呼び合った。
声が枯れるくらい、何度も何度も。
海と空。
月と星。
涙で透き通って見える、瑠璃色の世界。
俺の小さな恋人、ルナ。
ありがとう。
俺の気持ちを受け止めてくれて。
俺を好きだと言ってくれて。
宝物だよ。
全てがキラキラと輝いた宝物だ。
ひとつも忘れないよ。
一生忘れない。
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