第二章 柔らかい感触

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第二章 柔らかい感触

ガンッと音を立てて、シューティングスターは横転し、墜落した。 「くそっ!」イプシロンは膝を叩き、声をあげる。 「イプシロン、落ち着いて下さい。まだ手だてはあります。ここから十五分ぐらいの位置に、イーグルアイがいます。十五分間耐えて下さい。」 「十五分か……」イーグルアイが来るなら、助かる可能性が高い。 「オメガ、照明弾頼む」 「私もそのつもりでした。衝撃に備えて下さい」 機体を揺らしながら、空に向かって光の矢が放たれる。キラキラした光の粒子が周りに舞った。 その光に寄せ付けられるようにビーストが集まって来る。しかし、下級のビーストばかりだった。 「思ったよりもビーストの反応が少なくて安心しました」オメガが淡々と言う。 「まあ。オレは運がいいからな」鼻を擦りながら、得意気に言うと、銃を手に持つ。 「ほい、よっと」オメガにも散弾銃を渡した。 ビーストの興味はシューティングスターに向いているらしい。Bランクも船団から離れている。 「頼みたい事がある。船団のバケージを見たいんだ」 その答えに戸惑うように、オメガが言った。「少々、危険ですが、許可します。私も中身が気になっていました」 「アルファとベータが来たら、手柄を総取りされそうだしな」 「助けて貰うのですから、それは仕方がないのではありませんか?そうなっても構わないと思ったから、救援信号を打ったのですよ」 「固い事言うなよ。ただ興味があるんだ。奴らにぐちゃぐちゃにされる前に中身を見て見たいんだよ」 「イプシロンが気になっているのは、生命体ですか?」 「まあ、そうだね」 「しょうがないですね。船の中心に反応があるみたいです。行きましょう」 「了解」 船のハッチを空けて、中を物色する。壁を銃で破壊し、色とりどりの配線がむき出しになった箇所をこじ開け、扉を開いて行く。 人の営みが感じられる空間が広がるが、そこに熱は無い。過去の産物なんだろう。 金属製の食器や布で出来た靴などもあった。 写真が飾ってあるのを見る。ここにはいくつかの家族が住んでいたようだ。 「ここが中心です」オメガの硬質な声が船内に響く。 銃を持つ手に力が入る。 「開けるぞ!」足で扉を蹴飛ばし、素早く構える。 暖かい光が部屋に溢れていた。 「やりー。植物プラントだ」 「そのようですね」 「おい!墓みたいなのがあるぞ!」 「丁度、人が入る大きさですし、確率は高そうな気がします。DNA抽出出来るといいですね」 墓の中央に光が灯っているものがあった。 「オメガ、あれを見ろ」 「あれですね。生命反応確認します」 「生きているのか?」 「はい。確認しましょう」 「待ってくれ。オレが確認する。お前は周りを守ってくれないか?」 笑いながら、「イプシロン、あなたは。まったく困った人ですね。いいですよ。同意しましょう。私は後方警備に徹します」 「ありがとう!愛しているよ」と手をひらひらさせながら、笑みを浮かべた。 ロープを使い、入念に足場を確認しながら降りて行く。伸びた植物の根が足に絡まる。 「よいしょ。こらしょ」 苔に覆われた地面に着地をする。 光が灯る櫃はガラス質で中が透けて見えた。 中には三つ編みをした同じぐらいの人がいた。 オープンと書かれたボタンを押す。押す前から中はアクティブな状況になっており、解凍作業は大方終わっているようだ。 着地をした時点で、スイッチがはいったのかも知れない。 寝ているこの個体はとても綺麗で、何故か胸の鼓動が早くなった。 抱き上げて、ピンク色の唇にキスをした。 その瞬間、「イヤ!」と耳が塞がるような悲鳴をあげられ、ビンタをされた。 イプシロンの頬は腫れ、相手の頬は上気していた。 「絵本の中の王子様みたいでしたよ。イプシロン」とオメガは皮肉を言った。 抱き上げた時に感じた、柔らかい肉が腕に沈みこむ感覚を、ずっと味わっていたいと思った。 2daf4a65-4ff2-4a07-8ed1-0db1cc1d4847
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