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第四章 交戦
アルファからオメガに連絡が入る。
「どうだった?」心配しながらイプシロンは聞く。
神妙な顔つきで、「イーグルアイは苦戦している様です。散弾銃で弱いビーストを一匹、一匹駆除して行きましょう」
「ビーストの数は?」
少し考えながら、「およそ四十弱と言った所です。」
「そうか、一人二十はかなりきついね。弾はまだ残っている?」
指先で数えながら、「十分足りると思います。彼女をここに置いて、元来た入り口のハッチから出ましょう。少しでも遠い方が気が付かれる可能性は少なくなります」
「わかった。急ごう」
抱き上げた手を地面に戻した後、もう一度口づけをした。絶対にここに帰って来るんだと言う意味も込めて。
外に出る。空を見上げると無数のビーストが上空を飛来していた。
目標を定めて撃つ。少し翼に当たるが敵は怯む事は無い。逆に怒りに任せて本能的にこちらに向かって来る。それを狙っていた。装甲が堅い翼竜は遠くからでは、撃ち抜けない。
目を狙って撃つ。「もっとだ。もっと!」繰り返し同じ部分を撃つ事で複眼を潰して行く。弾が脳まで達する。灰色の塊が辺りに飛び散る。それをくらわないように避けながら、次の獲物を定める。後は単調な作業だ。事務的にこなせばよい。
オメガを見る。奴も上手くやっているようだ。親指を立て合図をすると、向こうも笑みを浮かべて返して来た。
あらかた下級ビーストを片付けると、イーグルアイの方を見る。かなり苦戦しているようだ。Bランクは触手をたらし、船内を物色している。あの個体がいる場所の辺りにカルスを作り、渦巻いていた。
「戻ろう」
無線から少し遅れて、「了解です。酸で船が溶かされています。早く行きましょう」と応答があった。
触手を銃で撃つ。「いけません!酸が出ます」オメガの強い口調に驚く。足元にはピンク色の液体が広がり鉄を溶かしていた。
「どうすればいい?」
少し考える素振りを見せて、「凍らせてみましょう。」と冷静な声が帰って来た。
銃のカートリッジを変える。液化窒素が入っているカートリッジを必死に込める。手に汗が滲んでいた。
船だけではなくイーグルアイの船内にも触手が及んでいた。イーグルアイはBランクから離れ、触手の被害を最小限にしようとする。
長距離射撃を開始し、ビーストの脳を破壊した。
触手は司令塔を失い暴走し、船内に落ちて行く。
イプシロンとオメガは触手を追い船内に入る。触手が腐食した穴は植物プラントの真上に出来ていた。
蠢く触手が少女の体をつたう。触手は少女の肉体から何かを奪おうとするようにヌメヌメと支管を伸ばしていた。
イプシロンは少女の体についた触手を剥がそうとする。液化窒素の残りは少ない。慎重に少女に影響が出ない箇所を選び凍らせて行く。六十パーセント凍らせた時点で、触手に巻き付かれる。自分に充てる液体窒素の余裕は無い。
もうダメかも知れないなと思った所でオメガが銃を撃ち抜く音が聞こえた。
触手は一斉にイプシロンと少女を離れて、オメガに飛びかかっていく。オメガを包む触手は紫色の膜を広げていた。
銃を打ち込む手が震えて、動けない。
今の状態で打ったら、オメガに当たってしまうかも知れない。
タンパク質が溶かされる嫌な匂いがした。なんとかしなくちゃいけないと言う意識と身体が連動していない。
「貸して。早く」後ろからぼそぼそと小さな声がした。イプシロンから銃を奪い取った少女は正確にコアを破壊した。
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