その日、俺は…… 『怪物になった』

1/1
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/14ページ

その日、俺は…… 『怪物になった』

ある夜、汗をびっしょりかいて目が覚めた。 外は雨降る嵐の中、雷がゴロゴロと唸る度に暗闇の部屋をピカっと照らす。 それは、とても気持ちの悪い光で、暗闇の部屋を一瞬明るくする。 顔を洗いに洗面所へ向かう。 なぜか分からないが気持ちが悪い、何か違和感を感じながらも、バシャバシャと顔を洗い 鏡を覗き込む。 鏡を覗きこんだ所で、暗闇の中の自分の顔がみえる訳もない。 だが、その時は不思議と鏡を眺めていた。 ぼーっと真っ暗な鏡から目がはなせない。 また雷がゴロゴロと唸りをあげる。 ピカリと光りの中で一瞬、鏡の前に立っていたであろう自分に何か違和感を感じる。 気のせいだろうか…… まだ脳みそは眠っているのだろうと思いつつも、鏡を見つめ確認をする。 再び光と雷の唸りと共に鏡が照らし出される。 「うわっ」 俺はよろけて尻もちをついてしまった…… 後ろを確認しても誰も居ない。 俺だけだ。 もう一度、雷の光と共に鏡を覗き込む…… そこには見るにも醜い、怪物という言葉が相応しい男がいた。 「おい!お前誰だよ!」と男に話しかける。 俺が話す度にその怪物はパクパクと口を開く…… 「何だよ!俺のまねしやがって!」 俺は目の前の男に数回罵声を浴びせたが 男は話しかける度にまねをしただけだった。 訳も分からず、今何が起きているのか理解出来ず、嫌な予感がして自分の顔をもう一度 確認する…… ♢ 数週間前 俺は、今とても楽しくて仕方がない。 何故かって? それは、俺をみて惚れない女はいないと思うほど、いいと思った女はみんな俺の想いのまま。 それに、人を騙すことは、俺にとって簡単なことだ。 相手がどうしたら喜ぶか、どんなことをしてあげたら嬉しいか、俺は手に取るようにわかる。 だから、その逆も然り。 必要ないと思った女は、すぐに捨てた。 そして、女以外の全ての事や物も、欲しいものがあれば力ずくでも どんな事をしてでも手にいれてきた。 欲しいものの為に、手段は選ばない。 最後に勝てばそれでいい。 俺は、いつもそうやって意図も簡単に手に入れて、想いのまま自由に生きてきた。 それが段々と俺の自信にもなったし、出来ない事は何もないと信じて疑わなかった。 彼女と出逢ったのは、俺が楽しくて 仕方ないときだった。 いつもの帰り道、途中に海岸があり、海を眺めながら帰っていた。 いつも海岸には、人などいない。 帰りにここを通るのが好きだった。 海が波打つ音、磯の香りが混じった風。 とても落ち着く。 だが、その日は普段の風景には似合わない 女が立っていた。 ここの場所は、街から少し離れているのもあり、普段全く人が居ない。 俺の俺だけの海岸だ。 なのに、今日は人が海岸にいる。 いつもと違う様子に自然と目がいく。 心地よい天気で気持ちいいのだろう。 きっと、海に泳ぎにきたんだと通りすぎようとしていた。 俺のプライベートビーチを占領しやがってと 心の中では思いながら、今日は譲ってやるよ!と少し不貞腐れながら…… その女をみた瞬間に身体が勝手に動いていた。 「おい!何やってるんだよ。しっかりしろ!」 女の両腕を掴み、強く揺さぶり 気がつくと必死に声をかけいる俺がいた。 それが彼女との出会いだった。 ♢ 彼女は、普通の女とは違い何処か少し変わっている所があった。 出会いは、彼女が絶望におちていた時に偶然俺が助けたのがきっかけだった。 そして、彼女は壊れやすいようにも感じる。 なぜなら、出会ったあの日に とても悲しそうで、 それでいて今にも壊れてしまいそうにみえたから。 他の女は皆、俺の容姿に惚れて、付き合ったら自分の主張ばかりして見返りを求めてくる。 でも、彼女はいつもそんな見返りは求めては来ない。 たまに会いたいと催促してくるけど、それだけだ。 いつも相手にしている女達とは違うから どうも調子が狂う…… あの海岸で出会ってから いつも彼女は、俺の近くにいて微笑んで寄り添っている。 何も主張してこない彼女に、何がしたいのか俺には分からない。 「おい、俺に何かして欲しいことはないのか?」 「ううん。ないよ。傍に居られるだけでじゅ〜ぶん!」 そう言っていつも楽しそうに笑う。 いつもその繰り返し。 どうして何も求めてこない?そう思うのだが 俺を好きな事は痛い程わかっていた。だから、いつも近くにいても突き放す事は出来なかった。 強く突き放したら、壊れてしまいそうで…… たまたま街を歩いてた時に、彼女は他の男と楽しそうに話している所を見かける。 俺も他の女と歩いていたから、その時は話しかける事が出来なかった。 俺のことが好きで仕方ないんじゃないのか!? 他の男と話している彼女はいつもとはどこか違うように感じられる。 俺の前とは違う、あんな顔をして笑うのか…… なぜかイライラする。どうして、こんなにもイライラしているのか、自分自身でもわからない。 ただ、このザワザワした それでいて複雑な気持ちで過ごすのは嫌で仕方ない。 だから、彼女を俺はもういらないと、判断した。 彼女を強く突き放したら、壊れてしまいそうだと思っていた気持ちが嘘かのように 気がつくと、他の女達と同じように意図も簡単に捨てていた。 「私、貴方の傍にいたい……お願いだから傍にいさせて……」 彼女は、泣きじゃくりながら俺にすがりついてきたけれど、俺は、首を縦には振らなかった。 彼女と離れてからは、以前と変わらぬ日々に戻り手当り次第、女を抱いたし、飽きたら捨てるそんな毎日を送っていた。 ある日、お爺さんが前から歩いてきていた。 白髪で白い髭をのばし、小汚い容姿の老人に不愉快すら感じる。すれ違いざまにぶつかり、よろけ転んだ老人に 「もっと端をあるけよ!じじい!」と気がつくと怒鳴っていた。 それでいて周りのやつらも、さめたような目でみるから凄く腹が立つ。どうして周りはそんな目で俺を見るんだ?俺には分からない。 ♢ その夜は眠れず、雷の音で目が覚めた。 眠れていたはずなのに起きてしまったからなのか、昼間あった事を思い出していた。 モヤモヤした気持ちに落ち着かない。 俺は洗面所へ顔を洗いに行く。 「うわっ!」 ♢ そして俺は…… 怪物になった……
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!