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怪物での日常
身体全体が毛むくじゃらで、自分でも怪物としか表現できない容姿になっていた。
とても醜くて……
本当に怪物になってしまったのか?
この状況に理解が出来ず、夢だと自分に言い聞かせて家から一歩も出る事が出来なかった。
一晩寝たらまた元にもどる、そう言い聞かさて過ごす。
そうしているうちに、数日経過していた。
家にこもっていても、食料はつきてしまうし、昼間は出ることができないから必然的に夜中心に行動する事になった。
昔の自分の容姿とかけ離れてしまって、生きていくのも嫌になってしまう。
この部屋は、獣の臭いで充満している……
風呂に入る事もしたくない。
入ったとしても水浴びになるだろう。
いっその事、このまま餓死して死んでしまった方がいい、だが、こんな絶望的な状況でも
身体は生きたいと、腹が減る……
外へ出かける時は、醜い顔を覆いかぶせるように頭から布を被り、そして、皆が寝静まった真夜中に出かけた。
♢
女達は、俺と突然連絡がとれなくなって家まで尋ねて来たりもしたけれど、俺は居留守を使って女が帰るまでの間、息を殺して隠れていた。
最初は頻繁に尋ねて来ていたが一週間も経つ頃には、誰も尋ねてはくれなくなった……
ただ、一人をのぞいては。
その女は、一ヶ月、数ヶ月、月日が経とうと毎日尋ねて来ていた。
最初は、誰だかわからなかった。
ふん、とんだ物好きもいるようだ。
窓の隙間から外の女を確認する。
そこに居たのは、あの時捨てた彼女だった……
♢
彼女は、飽きもせず、毎日食料や生活に必要な物を玄関の前に置いて帰っていた。
見つかるのを恐れて、夜になったらそれを家に入れる。
最初は生肉や生ものは悪くなって食べられなくなっていたけれど、一週間もする頃には、食料は、彼女が手作りで作ってくれていた料理だったり、生ものは比較的さけて置いてある。
いつでも帰ってきたら食べれるように比較的痛まないものにしてくれていたのだろう。
夜の部屋で一人で居ることは誰にも気づかれてはいけない。
ロウソクを灯す時や夜間は明かりがもれない
奥の部屋で静かに身を隠していた。
暗闇の中で小さなロウソクを灯す。ロウソクの明かりはとても暖かく、ホッっと息をして
身体の力が抜けていく気がする。
ロウソクの明かりだけが俺の周りを灯す。
それが毎晩の俺がしている事だ。
唯一、ホッと気を抜ける時間でもある。
彼女はあれから変わらず毎日日課のように、やってくる。
程なくしてから、
彼女には俺が家にいるとわかっている様子で
差し入れにも手紙が添えられるようになった。
あれだけ、泣きじゃくる彼女を俺は簡単に捨てたのに……
普通にあんな捨てられ方をしたら 俺なら
憎むし、居なくなったと聞いてざまあみろと思うだろう。
だから、彼女の気持ちが到底理解できなかった、やはり変わっている。
どうして彼女は俺が居ることが分かるのだろう……とも思う。
ああ、いつも置いている食料が無くなっていたら、そう思うのが自然か……
腹が空きすぎて理性を失っていて頭がまわらなかった。
「ああ……」
自然と深いため息が出てしまう。
おきてしまった事は仕方ない。
「うん!餓死しては、どうしようもない!」
と言い聞かせ、 開き直って食料を毎日貰う事にした。
俺にとって、毎日の料理と手紙が世の中と繋がる唯一の場所となっているからかもしれない。
彼女の毎日の手紙には、一日の街の様子や彼女の思った事や、世間話的な内容が書かれていて
退屈な日々を少し楽しいものにしてくれている。
♢
半年も経つ頃には、今置かれている立場に
どうでもよくなってきた。
毎日家に隠れているのは、とても退屈だ。
外の空気も吸いたい。
毎晩、夜に散歩をするのが日課になっていた。 夜な夜な街を歩いていた時にまたあの老人とすれ違う。
頭から被った布を顔が見えないように隠しながら、急いで老人の横を通りすぎる。
「ちょっとそこの若者」と振り返って俺を呼び止める。俺は、ドキッとして足がピタッと止まってしまう。どうして動かないのか、立ちつくしていた。
「Blueの花ひらくとき呪いはとけ
お前は救われるだろう。
本当に心から愛してくれる人が現れたとき
そのBlueの花は、愛する心により、花ひらくだろう。」
老人は振り返ってそう話すと、呪いによって醜い怪物になってしまった俺に、全て悟っていたかのように話す。
俺が振り返った時には老人の姿はもうそこにはなかった。
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