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呪い
老人とすれ違ったあの夜から、俺は呪いにかかってしまっていたのだと気がつく。
どういうことなんだ…… 何故俺が……
俺には、到底理解できなかった。
あの夜から、毎晩のようにあの老人を探していた。時間だけが過ぎていく。
街中を歩き周り探すが、ひと気すらなく、気がつくと夜があけようとしている。
老人を探す中で、焦る気持ちだけが空回りして上手くいかない、俺はその場に置き去りにされた気分で
家に何日も閉じこもり途方にくれる。
そうしているうちに時間だけが無駄に過ぎようとしていたが、 ただ思い出したことが一つだけある。
『Blueの花ひらくとき呪いはとけ
お前は救われるだろう。
本当に心から愛してくれる人が現れたとき
そのBlueの花は、愛する心により、花ひらくだろう。』
そう言っていた言葉を思い出し、それからは、頭から離れなくなる程 何度も復唱して考えていた。
本当に……愛してくれる人……?
そう考えたとき、すぐに彼女の顔が浮かんだ。
俺は、彼女を利用すれば、戻れる可能性があるということだ。
彼女なら、もしかしたら、俺の今の姿を見ても
離れていかないのではないかと都合のいい考えが頭によぎる。
今日は、彼女が毎朝来る時間に入口の扉を開けておいた。
彼女が入ってきた時、俺の姿をみてどんな反応をするだろう。部屋は明かりをつけずに、俺のいる部屋だけにロウソクに火を灯しておいた。
そろそろ来る頃だろう。
入口を入ると、長い廊下があり、部屋が何部屋かある。
俺のいる部屋は長い廊下に入る手前の部屋
付き合ったことのある女なら、皆知っているだろう。
俺を尋ねてその部屋へ真っ先に来るはずだ。
俺は、部屋の隅の壁に正面を向いて、彼女からは、俺の背中が見えるようにして待機する。
部屋の入り口から見て もし、この姿に怖くなったのなら逃げて行くだろう……
バタン!入口の方から扉が勢いよく閉まる音がする。
あの女は、何も警戒心というものが無いのか……
扉が閉まったかと思えば、パタパタと足音の音が聞こえる。
静かに来るわけでもなく、警戒心など感じられない…… とても堂々としているようにも感じられる。
コンコン。
部屋の扉をノックする音が聞こえる。
俺は返事をすることもなく、そのまま立ち止まっていた。
「じんさん……?」
少ししても、立ち去る音は聞こえない。
俺は、振り返る。
「じんさん、なの?」
そう彼女が俺に話しかけてくるけれど、俺は一言も話すことが出来ない……彼女は、俺の醜くなった姿を見ても恐れることもなく、少し微笑んでいるようにも見えた……
この、醜い怪物の俺を恐ろしくないのか……
どうして、離れていかないんだ…… ?
「じんさんなのよね? 絶対にそう! 貴方の目を見ればわかるわ」
一言も話さない怪物に向かって、涙を目に溜めながら今にも泣き出してしまいそうな顔をして一生懸命に話している。
「俺が……恐くないのか…… ?」
今の俺を見ても変わらない彼女に気がつけば口が自然と開いていた。
「ええ。 全然、恐くないわ。だって、じんさんはじんさんに変わりないから。とても、会いたかった……ずっと何処かに居て生きているって信じていたの…… 本当に、よかった……」
彼女は目にいっぱいの涙をためながら切ない表情と嬉しい表情を合わせたような不思議な顔をして近づいて俺の腰へ両腕を伸ばす。
ギュッ
「ああ、ほんとに、本当によかった……」
と彼女は俺に腕をまわし力いっぱいに抱きついてきていた。
その場で逃げるか怖がられると思っていたからそんな彼女の態度にびっくりして言葉も出ない……
彼女の予想していなかった行動に動く事が出来なかった。
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