失くしたもの

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失くしたもの

一日一緒に過して夜も深まった頃、俺達はBlueガーデンの丘へ来ていた。 今日は、満月で月の明かりがとても明るく感じる。丘一面に月の光が照らされている。 風が吹くと丘一面にある草花が左右に踊りだす。 Blueガーデンと名前が付いているのに、Blueの花など一輪も咲いてない。 「月が綺麗ですね」 そう言って彼女は月を見上げている。 「ああ。そうだな。綺麗だな」 そう言って彼女の様子を伺う。 何だ、花なんか咲かないじゃないか。俺は、毛むくじゃらになった、手や顔を触り時々確かめる。 「私、じんさんと出逢えて良かったです、とても……暖かい気持ちをいっぱい貰えました…… じんさんに とても救われました。 私は、今でも、たとえ貴方がどんな姿だろうと何も変わらない。愛しています……」 彼女は話終わると両手を広げて目を瞑り、月の光を浴びる。 彼女の目からは一雫の涙が流れていた。 その光景は、とても……美しかった 俺は、彼女の事を女神のように感じて目を奪われていた。 さっきまで吹いていた風はピタリと止まり、静寂が訪れていた。 次の瞬間……何が起こっているのかも わからなかった…… その光景はとても美しくて神秘的で一瞬だった。 そのBlueの光は静寂の中で、彼女を包み込み 彼女の胸元から大きな綺麗な花を咲かせている。 「えっ?」 俺は何が起きたのかわからなくなっていた。 Blueの光に包まれながら、彼女は、俺の方をみて何か話していた…… 「なに?聞こえない……」 気がつくと俺は、Blueの光の中に入り彼女を抱き抱えていた…… 「なに?何て言ったんだ……?」 彼女は、ぐったりしていて息をするのも苦しそうにしていた…… 彼女の手が俺の頬に触れる 「ありがとう……」 一言話すと幸せそうに微笑みそっと瞳をとじる 「おい!どうしたんだよ…… 何で……」 俺は、気がつくと涙が溢れて、胸が苦しくて 急に怖くなった…… 彼女を抱きしめて何が起きてしまったのか、受け止める事ができない。 俺は、自分でもこの感情を理解出来ないまま ただ、悲しくて、絶望に包まれたような感情が押し寄せ、自然と涙が止まらなくなっていた…… 「ほう。あんなに元の姿に戻りたいと思っていたのに、君は嬉しくないのかね?」 後ろから声がして振り返ると、あの時の老人がいた。 「な、何が起きたんだよ!こいつは何で息をして……ない……んだ」 「言ったはずじゃ、花ひらく時、君は元に戻ると、ね」 「でも、どうして彼女は、息をしてないんだよ……」 「彼女は、自分が花を咲かせた時に息絶えるとわかっていたはずじゃ。花を咲かせる時にお互いが想いあっていれば、息絶えることはないが…… 一人だけが想っていて花を咲かせた場合は、息絶えてしまうんじゃよ、この花は、愛をエネルギーにして育つ花なんじゃよ…… 双方の強い愛する気持ちがなければ、片方のみならば……片方の愛する気持ちと生命力さえもエネルギーにかえて咲いてしまうんじゃ」 「……うぁぁぁぁ」 気が付くと俺は、叫んでいた。 この気持ちを、この状況をどうする事も出来ない事に。涙が止まらなかった…… 今、俺に何が起きているんだろう 「お、お願いします…… お、俺は、このまま醜い怪物のままでいいから、彼女を生き返らせて下さい……」 俺は必死に老人の足元に膝まづいて頼み込んでいた。 今は、どんなに無様でも構わない。 ただ、彼女には傍にいて欲しい、失いたくない。 老人は、何も答えず悲しそうな顔をして、首を横に振るだけだった。 彼女の生きた証、Blueの花は気がつくと丘一面にその花を咲かせていた。 彼女の姿は、丘一面のBlueの花と共に安らかな顔をして フワッと俺の手の中から消えていった。 俺に残されたものは、さっきまでの彼女のぬくもりと一輪のBlueの花だけだった。 どうして…… 俺は、彼女の大切さに もっと早く気が付かなかったんだろう…… 『俺の失った物はとても大きいものだった』
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