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別れ?
毎日幸せな気持ちでいっぱいだった。
じんさんがいつも傍にいてくれている感覚がある。
それは、毎日一緒に居ると言う事ではなくて、
心を寄り添ってくれている気がしているという事。
これからもずっと一緒にいたいし、きっと一緒にいてくれるはず。
そう信じて、疑わなかった……
♢
空が澄んでいて真っ青、今日も空の綺麗な色に
今更ながら、生きていて良かったと実感する。
きっと、じんさんと幸せな時間が私の心を潤してくれているのだろう。
「おはよう。今日もお天気いいですね」
「おお。今日も元気いいね!さては、いいことあっただろう〜」
「もう。からかわないで下さいよ」
近所の人といつものやり取りを交わす。
私にとっては、この掛け合いが楽しくもあり、自然と笑ってしまう。
今日は久しぶりにじんさんに会えるから、いつも以上に心が踊っていて とても
幸せを感じる。
日々も充実してきている。
久しぶりにじんさんに会いに行くと何故かイライラしているように見えた……
じんさんのそんな姿を今まで見たことがなかったから、びっくりしてしまう。
「じんさん?今日、何かあったの?どうしたの?」
「何でもないよ!」
じんさんは、私に荒々しい口調で一言話すと
ムスッとしたまま無言で話そうとしなかった。
いつものじんさんと違う……何があったのかな?
「わ、私……何かした?何か嫌なこと、しちゃった?」
「いや、してないよ。悪いけど、俺たちもう会うのはやめよう」
「どうして?そんな事いうの……」
私が聞いても、ムスッとして話そうとしない。
……ど、どうして……いやだぁ……
いま、すごく……こわい……
「お願いだから、じんさんの……貴方の傍にいさせてください……」
急に別れを切り出されて、何が起きたのか分からなかったけれど、このままでは、終わりになってしまうことだけは理解できた。
今までと違うじんさんの様子にそう感じたから。
絶望的な気持ちで深い崖に突き落とされる、
暗闇の中に落ちていく感覚が押し寄せてくる……
こ、こわい。じんさんを失ってしまうこと、
身体の震えがとまらない。
気がついたら、じんさんに
「私、何でもするから、お願い……」
すがっていた。
じんさんと、出会ったあの時の気持ちとは
全く違う、それ以上の気持ち。
どんな形でもいい……この人の傍にいたい
♢
あの日から自分ではどうしていいか分からず、毎日をやり過ごしていた。
気がつけば、家の中で数日は過ぎていた。
別れを告げられて一週間が経とうとしている。
少し気分転換をしようと外を散歩する
ひたすら歩き続けた。ゆっくり、ゆっくり、遠くを見つめながら。
「あの、じんさんがいないんだけど、何か知ってる?」
「私もじんさんに会いたいわ。どうしちゃったのかしら……まっまさか、神隠しにでもあったの?」
「えっ?うそ!やめてよ〜そういえば、最近、獣が出るらしいよ……」
「ま、まさか!殺されたとかないよね?ふぅ〜あ〜鳥肌、私達も殺されないように気をつけよう」
ふと、耳に入る、
じんさんが神隠しにあったという噂。
私は、その会話を聞いて急いでじんさんの家に向かった……
死んでしまったとの噂もあり、ものすごく不安でならない。
家の前まで着くと確かに誰もいる気配はないように思えるけれど、何か違和感がする。
その日は、帰って、次の日から毎日通って様子を見ることにした。
もしかしたら、何か事情があるだけかもしれない……
私は、じんさんがいなくなってしまったなんて考えたくなかったから
だから、毎日願いじんさんの無事をひたすら祈った。
祈りながら、帰ってきた時の事を考えて差し入れを用意してドアの前に置いていく毎日。
ドアの前の差し入れは置かれたままで、
いつも腐っていたり悪くなっている事もある。
だけど、今日はドアの前の差し入れがない。
誰かが持って行ってしまったのだろうか……
数日置いてもやっぱり無くなっていた。
ほんの少しの希望を抱いて毎日置いておく。
その内、じんさんは、家にいるのではないかと考えるようになって私は、思い切ってドアをあけてみる。
ガチャ
鍵はかかっているはずなのに、開いていた。
私は、不安になりながらも家の中に入る。
家の中は真っ暗で今まで嗅いだことのない異臭がした。
じんさんが死んでしまったのではないかと
頭をよぎる。
迷わずそのまま、じんさんの部屋へ進む。
部屋を少し進むと明かりがみえる。
誰かいる?
きっとじんさんがいるんだと信じて
怖くなる気持ちを抑えながら部屋へ入る。
コンコン
部屋へ入ると大きな身体をした誰かが背を向けて立っていた……
異臭を放ちながら、容姿は人にも思えるがどう見ても獣という言葉が相応しい何かが服を着て立っていた。
私はじっと見つめていて様子を伺っていたが、
顔は見えないけれど、明らかにじんさんがいつも着ている服だった。
後ろ姿も、立ち方も同じだった……
「もしかして、じんさん……」
私が話しかけるとその獣は振り返る。
「じんさん……なの……?」
振り返った獣は、やっぱりじんさんだった。
容姿は獣のように変わり果ててしまっていたけれど、目をみたらすぐにわかった。
「俺が……恐くないのか…… ?」
「ええ。 全然、恐くないわ。だって、じんさんはじんさんに変わりないから。
とっても、会いたかった……ずっと何処かに居て生きているって信じていたの……
本当に、よかった……」
私は、じんさんだとわかった瞬間、彼を抱きしめていた。
容姿など関係ない。愛おしさが込み上げてくる。
もう、最初の怖い気持ちもいつの間にか消えていた。
「ああ、ほんとに、本当によかった……」
生きていてくれただけで私は幸せで
それ以上は何もいらない。
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