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プロローグ 魔王崩御
「残念ですが魔界時間午前2時22分を持って魔王様は崩御なされました……」
ここは魔界。
おどろおどろしい城の中で一際豪奢な一室。
頭に立派な角を生やした大男、魔王が横たわるベッドの横で顔中縫い傷だらけの白衣を着た初老の男、ドクターシュタインが魔王の死を宣告する。
「ご苦労でしたドクターシュタイン、あなたのお陰で魔王様は死亡宣告を十五年も上回ることが出来ました、礼を言います」
「いえいえ、私の医療技術の至らなさを呪うばかりです」
傍らにいた燕尾服を着たモノクルの優男がドクターに労いの言葉を掛けた。
男の名はノワール、常に魔王の側にあって執事のような役回りを担っていた魔族である。
「さてこれから忙しくなりますね、早速準備に取り掛からなければ……まずは葬儀にの手配、それから……」
「魔王セレクションの開催準備でございますね? ノワール様」
ノワールの前に美しい黒髪に妖艶な雰囲気を湛えた美少女が膝まづく。
黒のエナメルのボンテージファッションを身に纏い、露になっている背中には蝙蝠の羽に似た翼が生えていた。
「はいサディア、次期魔王様を選ぶ大切な行事ですからね、あなたにはセレクションへの参加資格を持つ魔王様の血統に名を連ねる人物のリストアップをお願いします」
「はっ、それならば既に終了しております」
サディアが分厚い書類の束をノワールに手渡す。
「おやおや流石はサディア、仕事が早い……まるで魔王様の崩御が予め分かっていたかの様ですね」
「まさか……滅相もありません」
「冗談です」
そう言いつつもノワールは全く笑みを浮かべていない。
だがサディアにとっては堪ったものではない、全身汗だくになっていた。
ノワールは魔王の勢力において実質ナンバー2の権力者、魔王が死んだ今は暫定でトップである。
そんな人物の機嫌を損ねるという事がいかに恐ろしい事か。
「……補足ですが、現時刻で参加資格者は108名おられます、しかし事前に魔界に居る参加者に打診をしていた結果、辞退者が一名おりまして……」
「ほう、この魔界にあって珍しく権力を欲しないお方がおられるとはね……うん?」
その人物の詳細が記載された書面に目を通したノワールの表情が一瞬だけ険しいものになったのだが周りは誰も気付いていない。
「それともう一つ、この人物……参加者に入れて良いものなのかと判断に迷っておりまして……」
「どれどれ?」
ノワールがサディアの言う人物の書類に目を通す。
「フムフム、う~~~ん、まあ問題ないでしょう
なにせ魔王セレクションへの参加資格はとにかく魔王様の血を引く末代の子孫ですからね……
彼の所には私自らがお知らせに参ります、あなたはそれ以外のこのリストにあるお方たちにお触れを」
「はっ」
サディアの姿が闇に包まれるとまるで黒い霧が掛かった様に一瞬にして膨れ上がる。
その霧は徐々に無数の蝙蝠へと姿を変え窓から暗く淀む魔界の空へと飛び立っていった。
「人間界ですか、随分と久しいですね……さて、このお方が本当に次期魔王候補たる素質があるか見極めるとしましょうか」
サディアの蝙蝠たちを見送ったのち、ノワール自身も魔王の寝室を後にする。
彼の手からすり抜けた書類には、とある人間の少年の肖像画がはっきりと描写されていた。
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