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「どっ、どうしたの!」
クラスメートが数人、心配そうな顔で美里に駆けよってゆく。
「あはは、自転車飛ばしてたら車に跳ねられちゃってさ。ほんと、災難だったよ」
「もうっ、美里までこんなにひどい怪我するなんて……」
「はぁ、演劇部の練習、しばらく休まなくっちゃ」
そういって美里は落胆した様子を見せた。
そんな美里の話を聞いた三人は、目を見開き、声を殺して驚いていた。その表情はしだいに優越感ともとれる恍惚に塗り替えられてゆく。興奮した様子で声をひそめて話し始めたから、わたしは素知らぬふりで聞き耳を立てる。
「ねえ、やっぱり『おとぼけ様』の予言、当たってたよ!」
「マジすごくない? おとぼけ様はあたしたちのこと、ひいきしてくれてるんだよ」
「ほんとほんと。だって、あたしたちだけはなんの被害もないしね~」
「あたしたちはおとぼけ様に選ばれたんだよ、さすが神様、見る目あるじゃん」
「「「ねー!」」」
三人は同意し、さも満足そうにうなずいた。
わたしたちのクラスでは最近、怪我人が続出している。香澄は左腕を三角巾で固定しているし、真由は首にカラーを巻いている。かくいう私もしばらく前に手首を痛めてしまい、まだ湿布と包帯が取れていない。そして美里は数えるところ二十九人目の負傷者だった。
このクラスは昨年、ひとり減って三十二人になったから、被害のない彼女たちを除けば全員が一回ずつ、順番に怪我をしたことになる。
担任の先生は、どうして自分のクラスだけと、いよいよ眉をひそめていた。みんな、心当たりはないわけではない。けれど、誰もそれについて口にすることはなかった。
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