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開幕
ニュースは夕方、嵐になると言っていた。
その前触れなのか、朝から教室の窓がうなり声をあげている。灰色の重たい雲が空を覆い、息が詰まるような緊張感に包まれていた。
わたしたちみんなは、いよいよだねと声に出さず同意していた。
★
若月女子高校2年B組、月曜日の朝。
三人の女子がスマホを見せ合ってバカ騒ぎをしている。わたしたちはその光景を静観していた。
「うわっ、『おとぼけ様』、今回はあんたんとこに来たんだ!」
「ねえ、なんて書いてあるのよ。早く見せてよ!」
「今度の犠牲者って誰? 怪我? それとも事故?」
すると尋ねられた彼女が意地悪く口元を歪める。周りに聞こえてほしいという魂胆がみえみえなのに、手にしたスマホをあえて小声で読み上げた。
『明日、田村美里が事故で骨折する』
彼女のSNSに送られてきたメッセージには、そう記されているらしい。
「今回の『おとぼけ様』の予知、当たっているかな! いつ届いたの?」
「土曜日。だから予知通りなら、あいつ昨日事故にあってるはずなんだよね」
「そういえば、まだ来てないよな田村」
三人は教室を見渡し、彼女がいないと知るとそわそわし始めた。彼女たちにとってはクラスメートの安否よりも『おとぼけ様』の予言が当たるかどうかが一番の関心事なわけだ。彼女たちはそういう人間だ。
美里はホームルーム直前になって姿を現した。のろのろと扉が開き、美里は二本の松葉杖を脇にはさんで体を支え、左足を浮かせて教室に入ってきた。受傷した左足にはギプスらしきものが巻かれている。
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