自分と他人という事は

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どうせこのままでは疑いをかけられたまま、そして依頼を続けるにしてもやめるにしても、白状して口止めした方が早い。 「何のための変装だったと思っているの、まったく。僕も僕でまだまだ修行が足りないのは分かったけれど!」 「え、ま、マサ?」 「ええそうですよ僕ですよマサですよ」 言いながら変装魔法を解いて、改めてマサはポールを睨み上げた。正直、かなり苛立ちを感じた。それは急に殴ってきたポールにもだが、自分自身にもだ。この二人に気を緩め過ぎた。 「これでいいですか、いいですよね、二言は言わせない。僕に手を上げるなんて上等じゃないか」 「……ん?」 「敵意があったら殺していたよ、今度から気を付けなよ、ポール」 「えっと」 「僕も僕で悪かったよ。でもね、こっちはそれどころじゃなかったから。だからパーティ組むの嫌だったんだ。ネルさんの顔を立てたけれどやっぱり無理。団体行動向いてない」 「まってまって!」 「頼むマサ、俺が悪かったから待ってくれ!?」 「待ってあげるから、どうぞ発言してください?」 言って左頬が完治したのを確認し、さあどうぞと杖を持ったまま両腕を組む。 「まず、お前、それが本当の姿か?」 「そう。ギルド内で聞いたことあるでしょ?僕の容姿だとかマサという名前、最近冒険者ギルドに入った新人魔法使い」 「…………訓練場の彼か」 「あれお前なの!?」 「その反応が分かっていたから変装していたの。はい、疑問の一つは解消だね良かったね次は?」 「あ~、えっと……取り敢えず、すまん」 「……ポール。疑心暗鬼にもなるだろう事はこれで理解できただろ?それに、マサくんが言うように最悪な可能性は考えるようにするべき時でもありそうだけれど?」 笑顔で畳みかけるマサに対してポールは漸く状況を理解できたようだった。謝罪が入り、カストルがもう一度空気を変えようとしてくれた。ポールを見ていたが、マサくんも、とマサへと視線を向ける。 「もういいよ、大人の姿に戻って?気になることがあったら聞くし、応えられる範囲で応えてくれればいいから」 「…………」 言われて深呼吸をする。もう一度黒髪金目の青年の姿になると、もう一度フードを深くかぶりなおした。 「……取り敢えず、私は気がのらない」 「…………マサ、悪かった」 「いい。ただ、お前たちにも被害が向く可能性が生じた。それだけ覚えてて」 「……マサくん、どんな事情があるか分からないけれど、もうちょっと肩の力抜いてくれていいよ。さっきの口調の方が俺は嬉しいかな」 「俺も。どうにもこうにも違和感があったんだけれど、さっきの姿と発言で漸く歯車がかみ合った感覚だぜ」 違和感があったのか。それはそれで印象に残りそうだから良かったのだけれど。否、この場合はもう本来の姿を見せているのだから意味がないかもしれないが。 「…………公の場ではこれでいくので」 「それでいい」 「……分かったよ。…………ごめんなさい、僕も熱くなった」 「大丈夫だよ。それに俺も漸く納得できた。どう見ても同い年ぐらいなのに『くん』って呼びたくなっちゃってたんだよねぇ」 「俺もだな。年上にはちゃんとそれなりの誠意を見せているつもりだが、しょっぱなから呼び捨てにしてた」 「…………年齢的には、それであっているから」 何だか子ども扱いされている気分だ。否、実際まだ成人はしていないのだが。 「いやぁ、小さな違和感はあったけれど、それ以外完璧だったぜ?何て言うのかな、動作が少し幼かったというか」 「だね。マグを持つのが両手だったりしたのが気になった」 「それは俺も」 「…………依頼の話をしよう?」 また話が脱線してしまいそうだ。思わず修正を入れる。 「ああそうか。そうだなぁ、俺は依頼を受けても良いと思っている」 「俺もだ」 「理由は?」 「マサがいるから」 「同じく、マサくんがいるから」 それを聞いて思わず口を開けた。なんだって? 「どういう意味?」 「お前、この村に来るまで五日間、ずーっと変装魔法を自分にかけていたって事だろ?」 「そうだね」 「それってイコール実力の証明になっているんだよ」 「……はあ」 嘘を言った覚えはないが、多少は疑われていたらしい。二人の発言からして自分の行動は少し変に見えたようだし、仕方がない事だ。だがそれでどうやって実力の証明になったのだろうか。 「マサくんはもしかして、魔法力が多い人たちの仲で育ったのかな?」 「……まあ、そうなるのかな。僕より少し下ぐらいの人が多かったし」 「お前、気付いていないかもしれないけれどそれかなりの実力者だからな?なんでDランク……ああそうか、単独行動が得意だったからか……」 カストルの問いに肯定し、ポールは目元を抑えて上を仰ぐ。自己解決したらしいので、何も言わずに様子を伺う。 「兎に角、お前の実力は正直俺らと同じぐらいだって思ってくれ」 「ネルさんに言われました。本当はBでもいいぐらいだって」 「なら自覚持て!?」 「まあまあポール。落ち着こう。ギルドマスターやネルにも考えがあると思うよ」 「そりゃそうだけれどな!?ってかカストル落ち着いてるな!?」 「ふざけんなよコノヤロウこの子が敵側についていないだけましだと思えむしろ俺らがこの子に不釣り合いなんだよ」 「ごめんなさいね!?」 カストルがポールの胸元を握りしめる。それに謝罪するポール。そのやり取りにマサはくすりと小さく笑んだ。 「兎に角、僕は頼りにされているっていう意味?」 「うんうん」 「そうそう」 マサの言葉に二人は同時に頷いてきた。 「なんてぇのかな、この三人でなら多少何があっても出来るって思っちまうんだよな」 「出た、ポールの意味不明な鋭い直感。でも今回は俺も同意見かな。マサくん、改めて言うけれど、依頼を受けるの嫌?」 「…………」 そういう風に言われては、マサも居心地が悪い。危険な橋は渡りたくないが、よくよく考えれば渡らなくてもいいのかもしれない。だって、自分は魔法使いなのだから。 「……分かったよ。任せっきりなのも嫌だし、さっき言ったように被害者が続出するのも夢見が悪い。僕の出来る限りのことをやるよ」 「「おっしゃ!」」 マサの発言に、ポールとカストルはがっと腕を組む。そこまで喜ぶことではないとは思うのだが。それよりも、言ったからには徹底的にやらせてもらう。 「じゃあ、先に言っておくけれど、僕らの命の危険がせまったら相手がだれであれ問答無用でぶっ飛ばすから」 「了解。殺さない程度にな」 「死んじゃったら打ち所が悪かったって事で」 「手加減してね?俺たちも吹っ飛ぶって事でしょ?」 「ああそうか。うん、でも二人なら大丈夫でしょ。反射神経良いもの」 何というハードな信頼だ。 思わずポールとカストルはもう一度顔を見合わせるが、直ぐに笑顔になって納得し合う。違和感のないマサ。これが本来のマサ。それに触れられたことに、事情があると知りつつも内面に触れられたようで嬉しく思った。 「じゃあ、とりあえず依頼を受ける方向で。場合によっては隠蔽魔法とか結界魔法をこっそりやるかもだから、宜しく」 「了解」 「頼むぜ、マサ」 それじゃあ、と改めて防音結界を解き、村長へ依頼を受ける旨を伝える。先ほど会話した内容は勿論伝えない。誰が敵で味方か分からない今、下手に口にしない方が良い。 「マサ、先に何をすればいいと思う?」 「現場調査。あと、山の様子」 基本的な問いかけに基本的な回答。だがその基本が要になるのは自然の原理だ。 「俺も同意見」 「二手に分かれるか?その方が早いかもしれない」 「私が山へ行きます。探知、探索魔法をかけてきて、その後二人に合流すれば早いかなと」 「山って言っても山賊がいると仮定して、隠れる場所は部分部分だろ?逆に時間かかるんじゃねぇか?」 「山全体に魔法をかけるので」 「「は?」」 「ですから、山全体に…………」 二人が素っ頓狂な声を上げる。再度確認のために言っていて気が付いた。そうか、普通の魔法使いは山全体に魔法をかけるなんてことはしないのか、と。 「……二人とも、私の魔法力の量にもう少し慣れて貰っていいですか?」 「…………了解」 「……そうだよな、うん。それぐらいは出来るんだろうな。うん」 妙にお互い納得し合って頷きあい、改めて三人は依頼遂行の為に下準備を始めるのだった。 ◇  ◇  ◇  ◇  ◇ 「なぁ~カストルさんよぉ」 「何」 「マサのことなんだけれどよぉ……」 マサが宣言通り山へと向かうのを見届けた後、ポールはカストルに話しかけた。ポールが何を言いたいのか分かっている。それぐらいの付き合いはあるつもりだ。 「それ以上言うな、俺たちも巻き込まれるぞ」 「そうだけれど!」 「マサくんの気持ちも無駄にするんだぞ」 そう、二人は気付いている。破壊しれぬ魔法力、そして先ほどの本来の姿。翠の髪と瞳。冒険者とは賞金稼ぎでもあるのだ。情報が回ってくるのは早い。まぎれもない、隣国の、国家総出の探し人だろう。 「変装して、誤魔化して、それでも何とかやって行こうとしているんだ。俺たちが口出ししていいはずないだろう?」 「……そうだけれど。……何か、アイツにやってやれないかな」 「何もないな。知らぬふりが彼にとって一番だろう」 「けれど、情報によるとかなり悲惨な状況下に置かれて育ってきたって話じゃねーか」 「それが亡くなっていざ保護した国家がどうなった?それ以上推測すると俺たちの命も危なくなる。もしかしたら彼の仕業なのかもしれないんだぞ」 「カストル!!」 カストルの静かな言葉に、ポールは名を荒らす。これまでの付き合い、そして先ほどの言動でその可能性は低いと感じているからだ。カストルも同じはずだ。そう思ったからこそ、声を荒げた。 「落ち着け。もしかしたら、という事だ。あの魔法力の量だ。本人にも制御できない可能性だってあるだろう?」 「ストレートすぎるっつってんだよ」 「お前がいうのか」 「俺が言うから意味があんだろーがよ」 「…………悪かった」 自分で理解しているうえで言われては、こちらもお手上げだ。裏表がほぼないポールは真っ直ぐに言葉を出す。そんなポールに窘められては相当だ。 「とりあえず、もう少し様子を見よう。今までパーティを組んでいなかった理由も人を避けていたというのが分かったし、この前話した家族の話は実家のことだろう。それに保護した国家が五年もきちんと回っていて、寧ろうなぎ上りだった。そういう意味では彼は国家に尽くしていたんだろうね」 「それは同意見だな。クロスクルはうまく経済を回していた。俺も一時クロスクルの兵士に志願しようか考えるぐらいにはな」 「ポールが兵士ねぇ……心強いんだかどうだか分からないな」 「あん?喧嘩なら買うぜ?」 「売っていないから安心しろ。……取り敢えず、今の彼の真意がどこであれ、俺たちは俺たちの身の安全を最優先する。それがマサくんが望んでいる事だと思うよ」 「…………おう」 流石に長年冒険者だけあるな。 とうに山に魔法をかけて戻ってきていたマサは、二人に感心して腕を組み、溜息一つ吐くのだった。
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