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秘密の幕開
エヴァンズが再生した窓ガラスでの再挑戦が成功すると、師弟は研究室を出た。校内の大きさや厚みの違う別の窓ガラスを相手に修行が続行される。
「純素割合をよく意識して、全体に均一にかけることを心掛ける」
エヴァンズの助言を受けながら、テアは空振りをしたり、時折ガラスにヒビを入れたりしながらいくつもの窓を相手にしていった。仕上げにエヴァンズが土魔法で衝撃を与えて、びくともしなければ合格となる。
「(あ、失敗する回数が、減ってきたような気がする……)」
既に何枚こなしたかわからなくなっていたテアはコツを掴みはじめていた。廊下のひときわ大きな窓に向けて行使する前に、ひとつ息を吐いた時だった。
気付くと、いつの間にか自分と師匠を囲むように生徒達が集まっていた。
「(え!? なんで!? ていうかいつの間に休み時間に!?)」
師弟の修行という珍しい場面を生徒達は興味深げに眺めている。
「エヴァンズせんせ、魔力変異と衝撃破損の防御は混合して一つの魔法として行うんですか?」
「いや、別種として二重行使となる」
「両方の魔法を破る必要があるってことでしょうか? どちらかじゃなくて」
「その通り」
勘弁して欲しいと思っているテアの一方で、聴衆から飛んできた質問をエヴァンズが悠々とさばく臨時の授業まで開催されている。
「(こ、こんな人前で、失敗しちゃったらどうしよう)」
穴があったら隠れてしまいたい気持ちがテアを襲ったが、聴衆が彼女の一挙一動を注視している。その目のどれもが期待と好奇心で満ちていた。隠れ穴など無い。テアは杖を握りしめて躊躇した。
しかし、その中で唯一、違う視線にテアは気付いた。
エヴァンズだけが何にも脅かされない凪いだままでテアを見ていた。
成功しても失敗しても、彼のそれだけは変わらない事を彼女は知っている。それを思い出すと、杖を握る手から余分な力が抜けた。
テアはひとつ深呼吸をしてから、最後は勢いをつけて崖から飛び降りる気持ちで魔法を行使した。
ルブの光が瞬く。エヴァンズが最終確認のため土魔法を行使する。拳大の石達が放たれて衝撃を加えたが、窓ガラスはその姿を少しも損ねなかった。
「「「おおー」」」
聴衆から歓声と拍手が起こった。
テアは恥ずかしさが過ぎて小さくなり凝縮して消滅しそうな心地がしている。
「(な、なんとか出来た、けど、私のこのペースじゃ、管理室の皆さんの役には……)」
「なになに? 集まってどうしたんです? もうすぐ授業ですよ?」
テアが自身の魔法の拙さを痛感していたところに小柄な男性が近づいてきた。
以前、スミス室長と穴が開いた教室を再生していた教師だと、男性にしては高い彼の声でテアは思い出した。
「テアと窓ガラスの防御強化の鍛錬をしています」
「窓? はあ、例の嵐対策ですか。大変ですねえ……え? もしかして今からやるんです?」
エヴァンズに向けて目を丸くしてから、次にテアへ顔を向けた。
「あ、はい。そうです」
「ここだけですか?」
「いえ、中央棟の他にも……全部で二百八七枚を」
テアが答えるとしばし絶句して、教師は口を開いた。
「――私も手伝いましょう。次の時間が空いてます」
「えっ……!?」
「いえ、多分ですけど――私の授業で逃がした竜巻が、雲の線を刺激してしまったのがこの嵐の原因なような気も……いや、そうと決まったわけではないんですけどね――まあ、とにかく手伝います!」
束の間ぶつぶつと呟いていたが、助っ人は腰に手を当てると頼もしい姿勢を取った。
「おたくのスミス室長に、借りもありますからねっ」
強力な助っ人の登場により施設管理員達の負担は大幅に軽減されることとなった。彼らは知らせを持ってきた室長がのっそりと去った後、各々が喜びの舞を踊った。
エヴァンズが授業に向かった後、テアは実習棟の一部の窓ガラスにのみ防御魔法を行使し、残りの時間は屋外の植木鉢の撤去などを行った。
そうしているうちにも雨脚は激しさを増して、午後の授業が短縮され生徒たちは寮に返されることとなり、テアとエヴァンズもいつもより少し早く帰路についた。
「――以上だが、防御強化の他に知っておきたいものはあるか?」
帰宅後、居間の卓に師弟が着席し、いつものように修行が行われていた。その一方、窓の外は既に真っ暗でエヴァンズ邸の屋根や窓を雨が殴るように鳴らしている。
「――他に……」
いちいち外の音に身を竦めてしまい削がれる集中と戦っていたテアは、エヴァンズの問いに熟考した。
エヴァンズは今日行った防御強化を含む他の物体操作魔法についてを解説していた。他に知りたい魔法は、と彼の方から問いかけられて、テアの頭の片隅にずっとあった本命が顔を出した。教えを乞うのは防御強化に続いて二度目ではあるが、テアは少し緊張しながら口にした。
「あの、もし出来るなら、魔法の痕跡を確認する魔法というものについて……あと、もし私に出来る範囲なら、実際にやり方を、教えてもらえたら……」
テアは補足として植物園の温室のヒビと、それを解明したブルーベルの事を話した。眼鏡の話はしなかった。
話を聞き終わると、エヴァンズはやはりテアの想定以上の丁寧な指導と共に、物体の魔力痕跡解明のやり方を示した。集中を乱す嵐の喚き声にも負けずテアはそれを吸収した。辞典の純素割合を確認し行使に臨む。修復魔法の実技と純素割合の暗記の同時並行をこなしているうちに、行使における五純素の割合をテアはなんとなくではあるが体感できるようになってきていた。
「……あっ、見えました!」
何度か空振りが続いた後、ルブの光がしっかりと杖の先に灯り、テアは声を上げた。卓上には実験用のティーカップが並べられている。
「ルブの光で照らすことで、魔力による変異の跡を赤色の発光として目視できる。その際目視出来るのは痕跡解明を行使した本人だけ。取っ手部分が赤く見えるはずだ」
「はい、たしかに」
エヴァンズが物体操作で変形させたティーカップの取っ手が、反応して赤く発光しているのをテアは確認した。その瞳にルブの光が映ってきらきらと輝いている。かねてから行使出来るようになりたかった魔法を無事に成功させ、安堵、というよりは未知のものに触れた子供のような無邪気さがその顔に滲んでいた。
しばらく魔法の効果を興味深く眺めていて、テアは思い出すことがあってエヴァンズに顔を向けた。
「あの、そういえば私他にも、見てみたい魔法があるんです。エヴァンズ先生の記憶忘却の魔法の実演なんですけど、学校でも高学年の生徒さんしか見れないって聞いて――」
「(え?)」
軽い眩暈がして視界が揺れた。
眩暈は一瞬ですぐに収まったが、我に返ったテアは呆然として口元に手をやった。
「(私、今、何を言って?)」
「わかった」
エヴァンズがあっさりと承諾し、逆にテアは慌てた。
「ご、ごめんなさい。生徒さんでも中々見れないようなものを見たいなんて、軽々しく言ってしまって……」
「構わない」
何ともない表情で彼が準備に入ったのを見て、テアはそれ以上言えなくなってしまった。
テアは困惑していた。興味が無かったと言えば噓になるが、記憶忘却を見せてほしいと乞うつもりなど、先の瞬間まで少しも無かった。なのに思いつくままに口にしてしまっていた。
『積極的に魔法を極めたいとは思えないけれど、どうせ一生付き纏うならば』という消極的な思いだけで修行を始めた自分からしてみたら、その衝動はまるで自分ではない別の誰かのようだった。自分のした事が信じられなかった。
「(痕跡解明が成功したからって調子にのったみたいで、嫌だな……)」
ひどく後悔しているテアの一方で、いつものように淡々と準備をし終えたエヴァンズが、テアの前に紙切れとペンを差し出した。
「実演は、私が君に実際に記憶忘却をかけることになる。君に負担が無く後に影響が残らない手順を踏む。構わないか?」
「あ――はい、それは。でも、本当に見せてもらっていいんですか……?」
「ああ。その紙に一から十までの中で適当な数字を一つ書いて、それを覚えてくれ」
テアは一瞬躊躇ったが、数字の七をなんとなく記した。
「君は、七と書いた」
「はい。七と書きました」
「では、それを裏返して――忘却を行使する」
対面するエヴァンズが少し手を伸ばして、緊張するテアの顔の前で手を振った。光が散ってテアは瞬きをした。特に変化は感じられなかった。
「君はその紙に数字を書いた。その数字は?」
「――、…………?」
すぐに口を開いたが、テアはそのまま固まってしまった。今さっき確かに紙に数字を書いたことは思い出せるが、一から十のどの数字にも心当たりがない。
「あれ、確かに私――でも、あれ? ――えぇーと」
すぐそこまで出かかっているのに出てこない歯がゆさで焦りだしたテアに、エヴァンズがもう一度手をかざした。光が散ってパチリ、という音が聞こえたのと同時にテアの背骨を冷たいものが走る。
「解除した。数字は思い出せるか?」
「――はい、思い、出しました。七です……」
背筋の不快さに密かにもぞつきながら、テアは紙を表に返して答えを合わせた。記憶は確かに戻っており内心で感嘆する。実演内容は簡素だが、自分の記憶を他人が狙いの通りに操る技が確かに存在するというのは驚異的で、まさに魔法としか言いようが無かった。
「気分や体調に問題は無いか」
エヴァンズの声に、テアは顔を上げた。その時彼が一瞬目を伏せたのを見た。
声も表情もいつもと同じ冷静沈着さだったが、そのわずかな目の動きがテアは気にかかった。確かに悪寒が走るのは気分が良いものではなかったが、それだけを言っているのではない気がした。
「あ、あの、大丈夫です。全然。全く何も問題ないです。元気です」
「そうか。人体操作を習得するには、物体の次に生体操作を――」
テアは彼を慮りやや大袈裟に返答したのだが、エヴァンズの冷静沈着な態度で空振りになってしまった。少し気恥しい思いをしているテアに構わず、師匠は丁寧な解説を続ける。
「(……気のせい?)」
テアの気は家全体を揺らす暴風によって逸らされた。集中していて束の間耳に届いていなかった嵐の喚き声が、再び彼女の身を竦ませた。
風雨の迫力は時間ごとに増していった。何かがぶつかる音などが外から聞こえるたびテアは恐ろしかったが、部屋に一人っきりでいるより良かったと一向に動揺しない師匠を見て思っていた。
夕食を取りその日の修行が全て終わると、テアは自室に戻った。
「(学校、大丈夫かな……?)」
ひどく打ち付ける雨の音に、机で本の頁をめくっていた手が止まる。テアは自室の窓に顔を向けた。
視線を本に戻した後、少し間を置いてから、テアは眼鏡を外した。杖を構える。
「眼鏡よ、その魔法の跡を見せよ」
唱えた言葉に従って杖先に光が灯る。青と紫がかった白光に照らされた眼鏡に、靄のような赤い発光が被さっていた。
自室に戻ってからすでに何度も試しているが、結果は同じだった。
「(じゃあ、本当にこの眼鏡は魔法で作られた物? 貰ったのが幼すぎて、全然思い出せない)」
テアが行使できる段階の痕跡解明で分かるのは眼鏡が魔法由来という事のみで、与えてくれたのが家族の誰なのかまでは見えてこない。
「(誰、だったっけ。魔法なんて、誰も使えなかったはずだけど――)」
優しかった父と母の笑顔、そして幼い妹の事を思い浮かべた。
その時また急に視界を光が覆って、テアは魔法を中断した。目頭を抑える。お茶会中に起きたのと同じ症状だった。
「ッ、なんだろうこれ、さっきも……あ」
テアはかつての師匠の台詞を思い出した。『魔力を消費すると一時的に衰弱する』
「(魔法の使い過ぎで疲れたんだ)」
テアは残りわずかだった復習を終えると、寝る準備に取り掛かった。
洗面台に向かおうと廊下に出た時の肌寒さで、テアは忘れ物を思い出した。
「(そういえばショール、夕食の時に居間に置きっぱなしに……)」
階段を降りる際に木が軋む音も、今日ばかりは嵐の騒がしさに紛れてしまっている。テアは居間を覗いた。暖炉の火は勢いを潜めている。手前の椅子には、膝の上に本を開いたエヴァンズが座っていた。
「失礼します……」
師匠に気付いたテアは、読書の邪魔をしないように小さく声をかけた。居間に入り、ショールを取ろうと食卓の椅子に近付く。
「……?」
違和感に、テアは横目で師匠をうかがった。反応が無いのは読書に集中しているせいかと思ったが、違う気がした。
忍び足で近付き、一度様子を見てから、再び距離を詰めた。そんなテアに彼が反応することは無い。
エヴァンズは目を閉じていた。
「(え? ん? 寝てる? 寝てるの?)」
胸がわずかに上下しているのは確認できた。テアは信じられない思いがした。師匠の眠る姿を見る事もそうだが、背もたれに体を預けているとはいえ人間がこんなに姿勢よく眠れる事に驚いていた。
「(まるで途中で寝落ちたみたいだけど……こんなに外がうるさい中でよく……)」
考えて、テアは今一度本人の台詞を思い出した。
――魔力を消費すると一時的に衰弱する。回復方法は睡眠と、食事を取る事――
殴り付けるような風と雨の音が響いた。息を呑んだ。思い当って衝撃を受けた。
弟子になり共に暮らし始めて数か月しか経っていないが、それでも教員の仕事と修行の両立が多忙な事はテアの想像に難くなかった。
自分だったら到底気力も体力も持たない生活を、よく平気で出来るものだと思ったが、違ったのではないか。
平気ではなかったのではないか。
平気ではないのに続けていたのではないか。
稀有な魔法を使い、いつも冷静沈着で、感情を露わにしない師匠は、どこか自分とは別次元の存在のように思えていた。しかし、彼も人間だったのだ、嵐にも構わず眠ってしまうことも、弱ることもありうる。そんな、ただの人間。
棒立ちしていたテアは打ち付ける雨音で我に返ると、嵐が隠してくれるにも関わらず出来るだけ音を立てないように動いて、忘れ物のショールを手に取った。
「エヴァンズ様、起きてください」
居眠りをする主人を発見したメイジーが、ランプ片手に声をかける。エヴァンズはすぐに目を開いた。
「お休みになるなら自室に行ってください。逆にお体の負担になります」
嵐はその頂点を過ぎ、窓を叩く雨音はだいぶ柔らかくなっている。
「ああ」
返事をしたエヴァンズが立ち上がろうとした時、彼に掛けられていたショールが床にずり落ちた。拾ったエヴァンズが問いかける。
「君のものか?」
「いえ、それは――」
使用人はなんとなく事態を察した。
「――ブライアント様ですね。そのまま眠らせておいてさしあげたかったんでしょう」
メイジーが彼の居眠りに遭遇するのは、珍しいものの初めてではなかった。彼女ならば見つけ次第すぐに寝台に送る。それは主人の体を考えての使用人の思いやりである。
「私がお返ししてもいいのですが――明日、エヴァンズ様が直接お返しなさったらよろしいのでは? あの方、余計なことをしたのではとか、いらぬ心配をきっとなさってますから」
「そうか。そうする」
今までのエヴァンズ邸にはない形だったが、テアのそれも思いやりに違いなかった。
本当にわかってるのかしら? ――と、使用人は感動を見せぬ主人の顔に心の中で問うていた。
翌朝はうって変わって快晴となった。
昨晩の騒ぎなど知らぬ顔の太陽が、空の低い所に上っている。千切れた白い雲たちは上空の強い風で次々と流されていった。
テアが朝の身支度をしていると、自室の戸を誰かが軽く叩いた。
「テア」
「はい。え?」
反射で返事をしてから、それがエヴァンズの声だと認識した。朝の修行の前に彼が部屋を訪ねてくるのは初めてで、何か起きたのかと慌てた。
「あ、今出ますので、すぐ」
衣擦れの音をさせながら身支度を整え、テアは戸を開けた。
「おはよう。朝早くからすまない」
「いえ、おはようございます。何か……」
エヴァンズは畳まれたショールを差し出した。
「これを返しに。ありがとう」
「あ……」
窺ったエヴァンズの表情はいつも通り感情を表していないが、わざわざ部屋を訪れてきたのはテアにとって十分予想外の出来事だった。
テアが受け取ると、用事を済ませたエヴァンズが階段に体を向ける。
「あの」
引き止められたエヴァンズは彼女の顔を見た。テアは一度合った視線を外すと、しばらく口をもごつかせた。
「あの、えっと……む……その、ね――寝てますか?」
「起きている」
冷静に返したエヴァンズに、テア少し間を置いてから激しく赤面した。
「あっ、はい。そうですよね。しちゅ、失礼しました。すみません。あの、では、また後で」
「ああ」
悠然とエヴァンズが去り、戸を閉めるとテアはその場にしゃがみこんだ。
「(無理はしないでって私なんかが言うのも生意気かもだし本当に無理をしているのかもわからないし、せめて普段から睡眠はちゃんと足りているのか聞きたくてなのにあんな言い方恥ずかしいあ~馬鹿~~~!!)」
頭を抱えたせいで整えた髪は無残な姿になり、テアはもう一度身支度をし直すはめになった。
その後、朝食を取り、師弟はいつもより早く学校へ向かった。テアが窓へ行使した防御魔法がしっかり作用しているかを確かめるためだ。
それを昨晩におずおずと言いだしたのはテアで「エヴァンズ先生はどうしますか?」と尋ねると、彼はお決まりの「どちらでもいい」とは答えず、鍛錬の結果を「一緒の時間に登校して確認する」と答えたのだった。
「(本当に、魔法の事はどうでもよくないんだな……)」
学校への道すがら、テアは隣を歩く師匠を横目で窺いながら改めて思った。
門をくぐり、まだ制服姿の一切無い校内へ入ると実習棟に向かった。テアが魔法を行使した場に到着すると、師弟はその廊下を端から端まで歩いた。
「全て問題ない。暴風雨にも耐えうる十全な防御魔法だった」
テアが担当した窓を全て確認し終わったエヴァンズがそう言って、固唾をのんで見守っていたテアはやっと肩の力が抜けた。昨晩は自分が担当した窓ガラスが全部割れてめちゃくちゃになった夢まで見ていた。
丁度ひと段落したところで、実習棟の入り口から小鳥が入り込んできた。顔回りの橙色が印象的なロビンだった。
「登校されている教職員の方は、中央棟三階会議室にお集りください。登校されている教職員の――」
それは校内を巡回し連絡を呼び掛けて回る言伝鳥で、師弟の上を何度か回ると飛び去って行った。
「――あの、ありがとうございました。私はちょっと他の所も、一人で見に行ってきますので」
「わかった」
そう答えて、エヴァンズは言伝に応じて中央棟に向かった。
テアは窓から見えた植物園に足を向けた。ガラスの温室の防御魔法はテアの担当ではなかったが、周辺の掃除を担っている身としては様子だけでも窺っておきたかった。
道中、まだ登校時間には早く生徒とすれ違うことは無かった。
「うわ……」
辿り着いた植物園の周辺には水溜まりが出来ており、泥水がテアの靴を汚した。木の枝や葉っぱが無残に散乱し、どこから飛んで来たのか菓子袋なども落ちている。
「今日のお掃除、どこから手を付けよう……」
そう呟きつつ、温室の側面に回った時だった。テアはそれを見て硬直した。
温室の側面に、ヒビどころではない、人一人がなんとかくぐれる程の穴が空いていた。テアが駆け寄る。
「(うそ、レンガでも衝突したの!?)」
気が動転しかけたテアの脳裏に、ふとよぎるものがあった。
――ここのガラスは特別でね、対魔力と物理衝撃に対する二重の特防魔法が――
――両方の魔法を破る必要があるってことですか? どちらかじゃなくて――その通り――
気が静まってテアはその場で考えた。真剣な表情で杖を取り出す。直すつもりはなかった。ただ、確認をするためだった。
「……ガラスよ、その魔法の痕跡を見せよ」
ルブの光の下で、異様な色が現れた。穴の周辺は濃い赤色の発光をしていた。
「(嵐だけじゃ空かない――この穴、魔法で誰かが!?)」
異変への然るべき対処をすぐに思い出す。
「早く室長とブルーベル先生に……!」
思わず口にした時、ガラス越しに色の塊が動くのが見えた。驚いたテアが硬直している間に、温室の外にいたその塊はあっという間に分裂し柵の影に消えた。
泥水が蹴り上げられる音に我に返ったテアも走りだした。中央棟の外壁に辿り着いてその正体が見えた。三人組だった。学校の制服姿ではない。
「――っ、ハァ、待っ……」
しかし既に距離が出来ており、追いつくどころか容貌を確認することも困難だ。
「(何か魔法で足止めを)」
そう考えても、修復魔法では意味がない。純魔法でいつかのミラーと同じ目に合わせるのは簡単だったがいきなりはためらわれた。
「――あのッ、お、お願いです……逃げないで!」
走りながらテアは必死に呼び掛けた。
「ッ、温室の魔法の事、何か知ってるんなら聞かせてほしいんです! どうか戻って、戻ってきてー!」
無情にも三人組は校舎の角を曲がり、その姿を消した。
――そして三人組の姿が再び現れた。
彼らはテアのお願いの通り、来た道を走って戻って来た。
困惑したテアが足を止める。三人組はついにテアの元へ辿り着くと、彼女の周りを駆け足で周回しだした。
「えっえっ? なっ、え??」
混乱しているテアも彼らに合わせてその場で回り、三人組の顔を見た。
私服姿だが大人ではなく僅かに幼さが見て取れる彼らは、困惑と驚愕の混じった表情を浮かべていた。
「ウエッ!? この人エヴァンズ先生の弟子だ!」
「じゃあこれこの人がかけた人体操作ってこと?」
「足が止まんない!!」
三人は駆け足をしながら口々に言った。回るテアも困った表情で返す。
「いえ、私は、人体操作なんて……」
「じゃあこれ――」
周囲を窺った四人の視線が、やがて一つの所に集まった。
横にそびえる中央棟三階の窓辺に姿を見せているその人こそ、人体操作特別学の講師、オリヴァー・ウィーレベッカ・エヴァンズであった。
共に職員会議中だった教師陣も続々と顔を覗かせている。
「あーーーー~~……」
三人組の内の一人が、諦観の声をもらす。
「降参します、ごめんなさい! 逃げませんから足を止めてください!」
エヴァンズの手が悠然と動いた。彼らはゆるやかに減速し、足を止めると、自分の意志でその場にへたりこんだ。
ついでに、目を回したテアもそれに加わった。
「私、知ってるわ。エヴァンズ先生がお菓子を持ち歩いている理由。私も頂いたうちの一人ですから」
冷たい外気を遮る温室の中で、三つの声が行き交っていた。青々と茂る葉や控えめに咲く花達を守るガラスの外壁に、穴は一つもない。
「頂いた、って、生徒に配り歩いたりでもしてるの?」
ティーカップを口元に運ぶブルーベルがフィッツレイモンドに問いかける。
「お配りになる対象はあくまで条件付きですわ。そのアルデバランという鳥はイレギュラーなのでしょうけど」
カップに口もつけず、テアはフィッツレイモンドの話を興味津々に聞いていた。
かつての約束通り、ブルーベルのお茶会に招かれたテアとフィッツレイモンドは、休み時間に温室を訪れていた。作業台の上には彩り役の鉢植えとティーセットが並べられている。
三人でとりとめのない会話をしているうち、ブルーベルがテアとエヴァンズの師弟申請について訊ねた。懐かしむ彼女に事務局でのやりとりを答えていた最中、テアは白昼夢のような光景を思い出した。アルデバランにせがまれて、師匠が難なく胸ポケットから菓子を取り出した件だ。
その回答を、フィッツレイモンドはテアに話して聞かせていた。
「特に実習の後などは、生徒が魔力消費に耐えられなくて弱ってしまう事がままあるのよ。ひどいようなら医務室行きになるけれど、それほどでもなくだるさや眠気が出た程度の生徒、そういう人を校内で発見した時――エヴァンズ先生はお菓子を下さるの。弱った生徒のための非常食を、常に持ち歩いているのよ」
フィッツレイモンドは誇らしげな顔をしている。
「へえ。エヴァンズ先生にそんな心がけがあるなんて、ちょっと意外だったわ。ちなみにあなたはどういう状況で?」
「詳細は伏せます。校内で弱った姿を晒すなんて自己管理の出来ていない証拠。エヴァンズ先生の思いやりは何よりも称賛されるべきですが、私自身としては猛省すべき話です。声高にするのもはしたないですわ」
「ふうん? なるほどね?」
気高く振舞うフィッツレイモンドにブルーベルは品良くにやついている。
テアは話を聞いて一人納得していた。彼がお菓子を持ち歩く印象など無かったが、そもそも自分の為ではなかったのだ。出会った翌日、駅について真っ先に袋一杯のサンドウィッチを買い与えてくれた事が思い出された。
「(生徒さんの事をそうやっていつも考えてたから、私の時もそうしてくれたんだ……)」
「そういえば、ブルーベル先生。薬草の盗難未遂事件は決着がついたんですか? エヴァンズ先生も関わりになったと聞いておりますが」
「ああ、それね。それもあなた達に話したくて、今日のお茶会を開いたのよ」
カップを置いた彼女に、テアとフィッツレイモンドが注目した。
「聴取によれば、そもそもが薬草の盗難目的じゃなかったらしいの。この温室には防御強化のエキスパートであるオルレッド先生の特殊な二重魔法の守りがある。それで――一部の生徒の間で、ここが肝試しというか防御突破の腕試し的な場になっていたらしいわ。あの三人組の生徒は前日の嵐で暇を持て余して攻略法をさんざん議論した末に、実際に試してみたくてたまらなくなったらしいの。それで今なら嵐後のどさくさで誤魔化せると思って寝間着同然でくり出したって。まあ確かに、雑草一つ盗まれていなかったわね」
「ハァ……全く、呆れた人達だわ」
「私的にはオルレッド先生が怒りながらも満更じゃなさそうにしてたのに呆れちゃったわ。自分の生徒が難問を自分の力で解いた事が誇らしかったみたい。度し難いわ、根っからの教師って」
「あの、生徒さん達は……どうなるんですか?」
「反省文と一か月のお仕置き研修」
「そうですか……」
テアは目を伏せた。
「ブライアントさんが気にする事じゃないわ。それに、すぐにあなたが発見してくれて私は助かったのよ。穴が空いた後に彼らの興味がどこに向くかなんて誰にもわからないんだから。感謝しているわ」
テアは慌てた。
「いえ、私は何も……生徒さんを止められたのは、エヴァンズ先生のおかげですから」
テアは自分の無力さを痛感していた。校舎を嵐から守ったり、誰かの役に立つにはあまりにも自分の魔法は微力で、逃げる生徒を咄嗟に無傷で足止めする事も出来ない。
そして同時に、師匠の魔法がどんなものかを知った。
エヴァンズの魔法は優しかった。
人を操る魔法が、使用人達が恐れたように、警察官が「あんなの」と言ったように、恐ろしく疎むべきものなのだとしても。もっと混沌とし酷くなり得る状況を、彼の魔法は誰も傷付けずに治めることが出来る。自分の純朴な純魔法よりもよっぽど優しい魔法だとテアは思った。
しかし、彼の魔法をそのように理解しても――その魔法を使う彼自身への理解は、あまりにも足りなかった。
「(毎日一緒にいても、私、全然知らない。エヴァンズ先生を)」
もし、魔法を望んで教えてもらった時のように――知りたいと望めば、知れるのだろうか?
未知のものに手を伸ばす時の心の躍動を、テアはわずかに感じた。
「何も、というのは言いすぎじゃなくて? 確かにエヴァンズ先生の大活躍ぶりは今に始まった事ではないですけれど、ご自分をそこまで卑下する必要もないと思うわ」
「ア、いえ、その……」
フィッツレイモンドの呆れ顔に気付いてテアは狼狽えた。
「管理員だと、どうしても生徒のいざこざにも巻き込まれるから大変ね。早くエヴァンズ先生の助手職に就ければ厄介ごとは減ると思うけど――」
ブルーベルは話の途中で、何かを思い出して軽く吹き出した。
「そう、エヴァンズ先生といえば、とても興味深いものを見れたわ。あの時、逃げる三人組に呼びかける声が会議室にまで届いて、着席してたエヴァンズ先生がね、一番最初にすっと立ち上がって窓辺に向かったの。でもあまりにも落ち着いていたから換気でもするのかと思って最初は皆流しちゃってたわ。今思うとおかしい話ね」
「エヴァンズ先生はいつでも理知的に行動なさいますから仕方がありませんわ」
フィッツレイモンドは無駄に訳知り顔をしている。
「エヴァンズ先生は声の主がブライアントさんだって気付いてたみたい。私、申し訳ないけどわからなかったのよ。こんなに小さい体であんなに大きな声が出せるなんて」
「はあ、すみません……」
テアは恥ずかしくなった。あの時は必死でそこまで大きな声を出した自覚が無かった。
「でも、すぐにわかったのね。あなたの師匠には」
ブルーベルは目じりに小さな笑い皺を作った。いつか、弟子の話をする彼女に、テアが慈しみを感じた表情だった。
「あのぉー、すみません」
突然のその声に、三人はガラス戸へ顔を向けた。温室の入り口に背の高い男子生徒が立っていた。
「管理室に聞いたら、ブライアントさんならここにいるって聞いて、来たんですけど……今ちょっといいですか? 渡したいものがあって」
「あら、まあ。どうぞ?」
ブルーベルが微笑んで返した。テアは戸惑っている。見覚えの無い相手だった。
「アイリーン! いいって。ほら、自分で渡すって言ったろ」
男子生徒の呼びかけで、小さな制服姿がおずおずと歩いてきて彼の横に立った。
テアはその姿を見て目をまん丸にした。スカートを直してあげた低学年の女子生徒だった。
「なんか妹の制服、ブライアントさんに直してもらったみたいで。すぐにお礼するべきだったんですけど、なんかこいつお礼を作るのに馬鹿みたいに時間かけるし、いざ会いに行こうとなると恥ずかしいとかって言ってごねまくるし、意味わかんな痛ッ、いい加減にしろって今日は連れてき痛イって!!」
めんどくさそうに話す男子生徒の腰の辺りを、俯いて赤い顔をしたアイリーンが殴っている。
「なるほどね」
ブルーベルが頷いた。
「つまり妹さん、とびっきりのファンなのね。ブライアントさんの」
戸惑い顔のテアにアイリーンが駆け寄り、二つ折りのカードを差し出した。テアは椅子から立ち上がってそれを受け取った。
「あ――開けてもいい?」
俯いたままのアイリーンは赤い顔で、何度も頷いた。
慎重に封を剥がし、テアがカードを開く。
「わ」
中から小さなシャボン玉がいくつも飛び出してテアは声を上げた。シャボン玉はふわふわと彼女の周りを飛んだ。
「それ、妹が半泣きで覚えた装飾魔法なんです。あなたの為に」
見守っていたブルーベルとフィッツレイモンドは視線を交わして微笑んだ。驚きに目を見開くテアが見つめるカードには――「エヴァンズの」や「弟子」という装飾語も無く――「ブライアントさん ありがとう」と書かれていた。
夜が更け、静かに一日が終わろうとしている。
自室で布団に入っていたテアは閉じていた目を開けた。
上体を起こすと台の上のランプにルブの光を灯し、眼鏡とカードを手に取る。
それは今日アイリーンから受け取ったお礼の手紙だった。男子生徒に分からないようにスカートを魔法で直してくれた感動と感謝、校内で遭遇した際挨拶をしてもらえて嬉しかったのに恥ずかしさのあまり逃げてしまった謝罪、シャボン玉は清掃業務中のテアを見かけた時の洗剤の泡から着想した事――それらがたどたどしくも懸命さが伝わる文字で記されていた。
テアは実の所、今日だけで内容を暗記してしまうほど何度もカードを開いてる。それでもまたこうして入眠を取りやめてはルブの淡い光を頼りに読み返していた。
テアは無意識に微笑んでいた。何も出来ないと思っていた自分の手に渡されたそれは、胸の内をあたたかさで満たしてくれていた。
今一度読み終え、丁寧にカードを折り畳んだ時だった。
「――、――!」
テアは自室の扉の方に顔を向けた。
くぐもった男の声がした。外からではなく家の内からしてきたように聞こえた。テアは一瞬エヴァンズの声かと思ったが、違和感があった。
静かに寝台から出ると、寝間着にショールを羽織りランプを手に取った。扉を開けると、エヴァンズの自室の方からかすかに話声が漏れていた。
「(誰か、喋って――怒って、る? いつの間にお客様が)」
話声は二つ聞こえた。冷静なものと、何かを訴え怒りを孕んでいるものだ。異常を感じてテアは恐る恐る暗い廊下を進んだ。物音を立てないよう細心の注意を払っていた彼女に対し、無情にも古い木の床板が大きく軋んで鳴いた。
「アッ! あ、」
思わず声を上げて、テアは愚行を重ねてしまったことに気付いた。扉の向こうが一瞬静まり返った後、何かが動く気配がした。
扉を開けて顔を覗かせたのはエヴァンズだった。
「あ、あの……」
「どうかしたか」
既に就寝しているはずのテアが立ち竦んでいるのを見ても、エヴァンズの声は凪いでいた。やはり怒り声は彼の物ではないとテアは思った。
「ごめんなさい。盗み聞きしていたんじゃないんです。物音が聞こえて、何かあったのかと思って――」
テアがしどろもどろに言い訳をしていると、もうひとりの人物が部屋から顔を出した。
「テア・ブライアント?」
男はエヴァンズの横をするりと抜けてテアに歩み寄って来た。
ランプに照らされた彼の容貌を見て、テアはまばたきをした。背丈や年齢はエヴァンズと変わらないように見えたが、それ以外の全てがまるで〝逆〟だった。
黒髪、凪いでいるが少し影のある瞳、黒を基調とした姿のエヴァンズが夜であるならば、彼はまるで日の光だった。丁寧に撫でつけられた明るい色の髪に、テアを見つめる瞳は若葉のように煌めている。光源の乏しい夜中の廊下にあっても彼の輝く容貌は際立っていた。これほど目を引く男性はロンドンでも見かけなかった。テアは彼自身からルブの光が発せられているのではないかと錯覚するほどだった。
「……はい、そうです」
テアはかろうじて答えると、師匠の客人に対し眼鏡を外すべきかと思い当った。最近は学校関係者にしか会わず着けたままにするのに慣れ切っていた。迷ったテアの手が宙をさ迷う。
その手を男は掴んだ。
「お会い出来て嬉しい。私はウィリアム。ウィリアム・ウィーレベッカ・マーティン」
面食らったテアはされるがまま硬直していた。宙をさ迷う彼女の手が握手の意だと思ったウィリアムは、その小さな手を両手でしっかりと握った。
喜びに細まる彼の目が、最早見つめるというよりは深くまで覗き込んでいるように感じて、テアはたじろいだ。
「ブライアント様! 何をなさっているんです」
背後から声をかけたのは、屋根裏から降りてきたメイジーだった。
「お客様の前に寝間着で出るなんて失礼ですよ」
「いいえ、無理にご挨拶したのは私なんです。御無礼をお許しください」
ウィリアムはメイジーに向かって丁寧に答えた。そして、軽くかがむとテアに顔を寄せた。
「必ずまたお会いします」
掴んでいた手が離れて、テアはやっと自由の身になった。エヴァンズとメイジーが視線を交わす。使用人はテアの肩をしっかりと抱いて誘導し、去り際に客を一瞥した。
「おやすみなさい」
客人はにこりと笑って彼女らを見送った。
「何なんですかあの男。嫁入りの前の女性にベタベタと……」
テアの自室へ共に入ったメイジーは、閉めた扉の前で小さく毒付いた。
「私が、物音がしたから様子を見に行ったんです。すみません余計なことを」
「ええそれはそうですが、ああいう見目の良さで無遠慮さを誤魔化すような男、お近付きになってもろくな事になりませんよ。妙な事はされませんでしたか? 紙片をポケットに入れられたり」
「紙片……?」
「連絡先などを渡されても、安易に応えてはなりませんよ。エヴァンズ様のお知り合いといえど油断なさいませんように」
「どういったお知り合いなんですか? あの、ええっと、ウィリア……」
「ウィリアム・ウィーレベッカ・マーティン様。エヴァンズ様の兄弟弟子で、ご職業は軍人だそうです」
「――――え?」
テアは驚愕の表情をした。先ほど彼の自己紹介を受けた時は、動揺していて聞き流してしまっていた。
「軍人にご興味が? ええ、確かに若い女性はそういった職業の男性に理想を抱きがちです。ですが――」
「あの、いいえ。軍人ではなくて、兄弟弟子? エヴァンズ先生の?」
「はい。そうエヴァンズ様から聞いておりますが」
「(ウィリアム・ウィーレベッカ・マーティン……同じ――エヴァンズ先生と同じ魔法名……同じ、師匠?)」
わずかに揺らめくランプの光が、机の上に置かれたカードや、数冊の本や、いつかの実演で使った「七」と書かれた紙片を照らしている。
どこかで鳥の鳴き声がした。
夜中だというのに遠くから響くそれは、かすかだが確かに、テアの耳に届いた。
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