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「同情ですか。そうですね、私も、そしてこの冷凍ラーメンたちも、その人の自己満足を満たすための手段でしか過ぎなかった、って所にでしょうか。その人が私に冷凍ラーメンを渡す時、どれにしようかとか特に選ばなかったんです。冷凍庫の中の一番手前にある二つを無造作に取り出したって感じでした。そして、彼の自己満足としての『ごめんね』に、幾ばくかの重みを持たせるためだけに私へと渡された。私への最後の餞として冷凍ラーメンを渡すのだったら、別のラーメンにするはずだったんです。彼が渡したのは塩生姜、そして所謂二郎系のラーメンだったけど、私が好んで食べていたのは醤油ラーメン、そして鶏白湯ラーメンでしたし、その人はそのことを十分に知っていましたから。もう、そういう事って、どうでも良かったんでしょうね。」
「私も結局はその人にとって、彼を支えるための手段だったんだろうなと思います。秋以降、綻びかけたその人のプライドを補うためのツールだったんだろうな、と。自己満足を肯定する役割を、その人は私に求めていたんだろうなって思います。」
俺は納得した。けれど、何か肯定の言葉を発すること、それは如何にも空々しく思えてしまった。だから、彼女の方を見ること無く、二、三度深く頷いた。
俺の首肯を見届けたかのようなタイミングで、彼女は言葉を続ける。
「だから、今夜はその冷凍ラーメンを食べることにしたんです。去年の春、この桜並木で、その人と一緒に夜桜を眺めていました。あの頃は幸せだったし、それを思い出すと、やっぱり心が痛むんです。かといって、そんな気持ちいつまでも引き摺るのって嫌ですから。桜を見る度に心が痛むだなんて嫌じゃないですか。だから、桜の下で、私と同じ立場だった、この可哀想な冷凍ラーメンを食べるだなんて巫山戯た事をして、もう全部、リセットしてみたかったんです。」
彼女のその声は、笑いを孕んだかのように軽やかだった。
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