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沈黙が続く。
どうやら、彼女の話は終わったようだ。
俺も彼女の話を聞き、胸に蟠っていた様々な感情を整理したい、そんな思いに駆られていた。
ベンチから立ち上がり、そして、邪魔したことを彼女に詫びる。
彼女は柔らかな微笑みを浮かべつつ、いえいえと答える。
俺は彼女に会釈をし、そして、来た道へと戻ろうとする。
思い出したかのように彼女が呟く。
それは、独り言であるかのように。
「結局、幸せってことの価値観が違ったんだろうな、って思います。その人は私を守りたい、支えたいと言っていたし、そして私にもそれを求めました。『守りたい』って、その人の願望の裏返しだったんでしょうね。でも、私はそうじゃなかった。傍に居て、そしてお互いの幸せを願い合う、そんな感じで別に良かったんです。勿論、困った時に手を差し伸べ合うことは必要ですけど、でも弱さありきの関係性にはどうしても馴染めなかった。」
何か答えるべきかなと迷った。
でも、それは止めた。
それは彼女の深い部分であるような印象を受けたし、それに半端に答えることは、ともすれば彼女を傷付ける結果ともなりかねない、そう思ってしまったから。
立ち去りかけた歩みを止める。
顔半分ほど彼女の方へと振り向く。
無言で会釈をする。
そして、来た道へと向き直り、無言で歩みを進める。
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