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「……こういうとき、ドラえもんがホントに居たらよかったのになーっとか思わねえ?」
場を和ませようと、俺は笑顔を作って言った。見えねえだろうけど。なのに、答えるタカハシの声は不愛想だった。
「そうだね。ヨシダちょっとのび太っぽいし」
「お前、かなり失礼なヤツだな!」
「そうかな。ヨシダ程じゃないよ」
「俺のどこが失礼だよ!」
タカハシがふうっとため息をついた。暗闇の向こうで、どんな顔をしてんのかは分かんねえ。でも、なんだか、聞いてるこっちがギクッとしてしまうようなため息だった。
「……な、なんだよ」
尋ねてみると、タカハシは、思いがけないことを言い出した。
「ヨシダさ、入学式のとき」
「お……おお」
「俺のこと覚えてなかったろ」
「はっ?」
覚えてないも何も、入学までコイツとは何の接点もなかった筈だ。急に、何を言い出すんだろう。俺の頭の中を見越したように、タカハシがポツリと言った。
「ドルフィンズ遠泳クラブ」
「ドル……? あ――……、あっ!」
そのダセエ名前は、古い記憶を俺の脳みその奥から引っ張り出した。
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