Side Y

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 そんな世迷いごとを口にしながら、この狭くて暗いエレベータの中、いわゆる「壁ドン!」の体勢で俺を壁に押し付けているのは、クラス委員のタカハシだ。黒縁のメガネの奥の瞳が、真っ直ぐに俺を射抜いてる。 「お……っ男とのキスなんか、経験しないまま死ぬ方が普通だろ!」 「ふむ……。一理あるね。でもこのままだと、女の子とのキスも経験できないよ」  確かに……と納得しかけたが、ハッと我に返った。 「だからって、男としてどーすんだよ!」 「理想が高過ぎると、何にも手にはいらないよ。ある程度の妥協は必須だと思わないか?」 理路整然と、理屈に合わないことを言われた気がする。 「……イヤイヤイヤイヤ、男とのキスは、ある程度の妥協、じゃねーだろ!」 「俺は、ヨシダなら妥協の範囲内なんだけどな」 「俺は、タカハシじゃ妥協の範囲外なんだよ!」  利害の一致しない俺たちは、それぞれに相手を睨みつけた。互いの息が、生暖かくかかる距離で。  そもそも、なんでこんなことに――真っ暗な狭いエレベーターの中で、日頃口もきいたことのない、お堅い優等生との評判の同級生にキスを迫られ、壁ドン!されることに――なっているのかというと。
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