Side Y

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 ミヤマさんが先に立ち、廊下の端にあるエレベーターまで先導してくれた。荷物が重過ぎて身動きもままならない俺たちのために『下へ』ボタンを押したりして、親切に世話を焼いてくれる。彼女が動くたびに、フワッと漂ってくるのは、シャンプーのいい匂い。  このまま一緒に準備室まで行ってくれんのかと思いきや、ミヤマさんは一階のボタンを押すと、素早くエレベーターから飛び出した。 「あたし、台車を運んでみるね。プリントは一足先にお願い!」  ミヤマさんの声が、閉まりゆくドアの隙間から聞こえたのを最後に、俺は、クラスメートという以外は、何一つ接点のない眼鏡の優等生と二人きりで取り残された。  エレベーターが動き出し、腕の中のダンボールの重さが、一瞬、和らいだ。でも、またすぐに、ズウンと荷重が戻ってくる。 「……お……重いな」 「そうか?」  オデコしか見えないガリ勉が、特に無理している訳でもない体で答える。
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