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その顔を見ていたら、無意識に自分の唇に手が伸びた。あのとき感じた、温かくて柔らかい感触。
――アレって――……。
「エレベーターが動き出す直前、ヨシダ俺にさ――……」
「何にもしてねーよ!」
「でも、何かこう唇に……」
ヨシダは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「してねえからな、キスなんか……ッ!」
「でもさ、確かに……」
「お前の妄想だ!」
「その割にはリアルだったような気が――……」
首を絞められそうな勢いで、詰め寄られる。
「お前、朦朧としてただろ! つか、キモいから、妄想でもやめろ! いいな!?」
「嫌ならやめるけど。……でも、夢に見そう」
「うううっ、夢も見るな! ホントに止めろ! 止めてくれ!」
ヨシダは頭を抱えてそう言うけど、構わない。
あんなことがあった後なのに、ヨシダは俺のことを避ける風でもない。むしろ、前よりはずっと、近い距離で接してくれている気がするから。
まるで、あの夏の日のつづきが始まったみたいに。
おしまい
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