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「いくら生気が上等でも『器』……茶太郎の場合、お菓子ですね。それが歪では、吹き込まれた生気の力は半減するのですよ」  彼女の言葉を理解すべく顔を見つめる。トヨ姫様は、指先に付いたクリームをぺろりと舐め取る。赤い舌が細い指に這う様子が今度はなまめかしくて、体の芯が熱くなる。あわてて不埒な思いを打ち消そうと首を横に振ると、トヨ姫様は「茶太郎」と俺の名前を優しく呼んだ。 「それを踏まえて、あなたのお菓子はとても美味しいのです。この意味、おわかりになって?」 「……!」  うっすら赤みを帯びた彼女の目は優しく、慈愛が溢れている。  と同時に、トヨ姫様の言葉の真意が、胸を刺す。  彼女は、俺の生気だけではなく、俺の作った菓子そのものを好いてくれているのだ。 「――ありがとうございます」  自虐した自分が恥ずかしくて、俺は心からの気持ちと共に頭を下げた。 ◆◇◆  部屋に戻った俺は、汚れたコックコートとノートを見る。 「俺はあの日、死んでもよかった」  トヨ姫様が助けてくれたあのとき。俺は既に半分、喰われていた。  意識も絶え絶え、最期の遺言を気取った俺は、偶然持っていたお菓子――店で、唯一自分が担当していた焼き菓子――を彼女にあげた。  それを食べた彼女が言ったのだ。「あなたを死なすのは惜しい」と。 「襲われるのは怖いけど、食べてくれるんだもんなあ」  隙魔界の住人が俺の生気にあらがえないように、俺も作ったものを食べてもらえる快感にあらがえない。  今度はいつ手紙が届くのか。次の期待に胸を膨らませ、俺は洗濯機へコックコートを入れた。
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