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◆◇◆
「帰ってしまった」
茶太郎が人間の世界に帰ってすぐ、トヨ姫は誰も居ない部屋でつぶやいた。
彼女の口の中には、茶太郎の作った菓子の甘さがまだ残っている。茶太郎の「生気」由来の、酩酊しそうなほどの甘い痺れをもたらしながら。
ああ、と切ない吐息が漏れる。
偶然に迷い込んだ人間の男。儚げな気配と、純粋な生気を持ち合わせた存在は、隙魔界の住人には格好の馳走だった。だが。
「酔狂、そう、酔狂ね」
あの日、ひと思いに貪ってしまえば、ここまで苦しむことはなかったのかもしれない。
「私が惚れたのは、茶太郎の生気? いいえ、あのひとと、あのひとの作ったお菓子」
生かすために、契約した。隙魔界の摂理に反して生かすために、独占はできなくなったが。
「……手中に収めたいのは、私も同じなの」
切ない思いを抱えつつ、トヨ姫は口の中にいまだ残る甘さを転がし続けた。
<おわり>
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