ゾンビの肉、女神の骨

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 明里(あかり)は自分の事をゾンビだと思っている。  ゾンビとは動く死体である。  母親が厳しく、幼少期よりずっと、枠からはみ出ないように、怒られないように、それだけを唱えて生きてきた。  その為か子供のころから緊張しいで、何かあるたびに腹痛がする人生だった。  就職もうまくいかず、なんとか地銀の窓口におさまったものの、事務作業が細かくてミスしてしまう。ミスしたところからまた緊張して、簡単な作業もできなくなる。  とりわけ明里を苦しめたのは、窓口での営業だった。  定期貯金をしに来た人に、全く関係ない生命保険を進めなければならない。客は早く貯金の処理をして欲しいだけだから、「保険」という単語を聞いただけで機嫌が悪くなる。そんな客に事務をせかされて緊張し、またミスをする。その繰り返しだ。  もちろん客にも上司にもこっぴどく叱られる。無論、保険営業にはノルマがあるが、こんな有様では達成できるはずもない。そのことでまた上司に叱咤される。  そんな事を繰り返しているうち、まず胃をやられ、点滴が必要な程、胃腸炎で吐いて会社を休んだ。  それ以来体が重くて重くて仕方がなく、どうしても起き上がれない日は会社を休み、有給が徐々に減っていった。会社にも居づらくなる。
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