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だが、その時だった。
全身がぶるぶると震えだしたのだ。
けいれんという程には激しくない。ただ疲弊しきった筋肉を無理に動かす時のようにぷるぷると震える。何かを求める様に腕を伸ばそうとする肉体に、明里は驚いた。
しばらく呆然と体が震えるのに任せていたが、やっと気づく。血で固まった唇で語り掛けた。
「お前、生きたいの」
肉体は、死んではいなかった。
明里の命令に、薬の操縦に、静かに従いながらも、したたかに生存していた。明里の虐待にも負けず、必死に生き延びてくれていたのだ。
明里は涙が止まらなかった。
この肉体が自分をつなぎ留めてくれていたのだ。
「ごめんね……」
明里は虚空に向って呟く。
「今までないがしろにして……ごめん……」
震える声で、肉体に、もう一人の自分に詫びた。
(ありがとう、こんな私に付き合ってくれて)
もう一人の自分に感謝の念が湧く。
明里のわがままを、無茶を、ギリギリまで耐えてくれた肉体。明里のことを見捨てずにいてくれた唯一の存在。たまらなく有難かった。
そして同時に闘志が湧いた。私はここで死ぬ訳にはいかない。
生きよう。そう思った。この体は生きたがっている。
(いや違う)
明里は思った。
(この体こそが自分なんだ)
自分は生きたがっているんだ。ならば生きよう。今まで素直に付き合ってくれた、この体に報いるために。
明里は目を見開いた。
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