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会社へは母親が一報を入れてくれていたが、明里は自身でも電話を入れた。大部屋はベッドが空いていなかったため、明里は高価な個室に入院していた。大部屋はケータイでの通話を禁止しているが、個室にはそのようなルールはない。その為、母親が持ってきてくれた自分のスマホで会社に電話した。
「二週間も休むなんて困るよ」
課長の声が耳に飛び込んでくる。
「第一ね、立花さんまだ六ヶ月経ってないから有給無いよ。二週間欠勤になっちゃうんだけど」
そう言われても明里にはどうすることもできない。点滴つないで出社しろと課長は言っているのだろうか。とにかく明里は誰もいない空間に向って、ひたすら謝った。
課長が慌てるのも無理はなかった。明里は多くの仕事を抱えていた。それが急にいなくなったのだ。現場は「女神」の不在に混乱しているだろう。
しかしそれも一時的なものだ。明里がこなしていた仕事は誰でもできるものばかりだった。書類を読めば、どうすればいいかなどすぐに分かる。仕事が適正に分配されれば、あっと言う間に正常に回りだすだろう。
なんとか課長の怒りを受け流して電話を切る。心痛に、胃潰瘍が悪化しそうだった。
「話せた?」
売店で買い出しを済ませた母親が、部屋に入ってくる。
「何とか。一応お大事にとは言ってもらったよ」
「あら、よかったじゃない」
よかったのだろうかと疑問に思いながら、明里はベッドにぐったりと横たわった。
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