ゾンビの肉、女神の骨

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 意外なことに母親は毎日見舞いに来た。  悪い脚を引きずりながら、タクシーを駆使し、少しずつ入院に必要なものをそろえていった。  落ち着いて振り返ってみれば、母親は昔からピンチの時に冷静になる性質を持っていた。  明里が小学生の頃、額を切る怪我をした時は、血相を変えて学校に駆け付けたりせず、ママ友に腕のいい形成外科を聞いてから現れた。父がリストラされた時も泣いたりわめいたりせず、淡々と自らのパートを決めてきて家計を支えた。  この危機の時に冷静になるという母の習性が、幼い頃の明里には逆に、異様で理解できなかった。無言で責められているような気がして苦手だったのだ。  しかし大人になってみると、母親の行動力、胆力は頼もしい限りだった。
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