6人が本棚に入れています
本棚に追加
意外なことに母親は毎日見舞いに来た。
悪い脚を引きずりながら、タクシーを駆使し、少しずつ入院に必要なものをそろえていった。
落ち着いて振り返ってみれば、母親は昔からピンチの時に冷静になる性質を持っていた。
明里が小学生の頃、額を切る怪我をした時は、血相を変えて学校に駆け付けたりせず、ママ友に腕のいい形成外科を聞いてから現れた。父がリストラされた時も泣いたりわめいたりせず、淡々と自らのパートを決めてきて家計を支えた。
この危機の時に冷静になるという母の習性が、幼い頃の明里には逆に、異様で理解できなかった。無言で責められているような気がして苦手だったのだ。
しかし大人になってみると、母親の行動力、胆力は頼もしい限りだった。
最初のコメントを投稿しよう!