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翌日、東京駅の「あけぼの」で豆大福を買い実家に帰った。母親は餡子が大好きだった。
実家は東京近郊の住宅街で、最寄り駅に快速が止まることが両親の自慢だ。
両親は明里が一歳のころにマンションを買った。明里は人生のほとんどをこの家で過ごしたが、四年半ぶりの家は何処か他人行儀でよそよそしかった。
明里の部屋は物の配置が変わっていた。
「一時期おばあちゃんがいたのよ」
四年半前よりもだいぶ太った母親が、豆大福を片手に言う。
その祖母も今は特別養護老人ホームに入っている。
「月に一回、レンタカーを借りて顔を見に行くの。パパの休みが多くなって助かったわ」
何も聞いていないのに語り続けるのは母親の才能の一つだ。そのおかげで明里はすっかり口数の少ない女になってしまった。
父は仕事でいない。
説教か無視か、とにかくお怒りの母親がいると思って体を固くしていた明里は、玄関で出迎えてくれた母親を見て拍子抜けした。
母親は普段の暢気な母親だったのだ。何か不意打ちをしかけてくるつもりなのかとも思ったが、そうではないようだった。そもそも彼女は腹芸ができない。
大福を食べ茶を飲む。その間に話をする。
「何年働いた?」
「六年かな……」
「ふぅん。まぁ、いいんじゃない」
何がいいのかは分からないが、母親からしたら及第点だったらしい。未だに明里は彼女の基準を理解できない。
「お茶おかわりする?」
急須を持って母親が立ち上がる。
明里は特に飲みたくもなかったが、飲もうと思えば飲めないことはない。とりあえず頷く。それがこの場での正解に違いない。
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