ゾンビの肉、女神の骨

6/44

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
翌日、東京駅の「あけぼの」で豆大福を買い実家に帰った。母親は餡子が大好きだった。 実家は東京近郊の住宅街で、最寄り駅に快速が止まることが両親の自慢だ。 両親は明里が一歳のころにマンションを買った。明里は人生のほとんどをこの家で過ごしたが、四年半ぶりの家は何処か他人行儀でよそよそしかった。 明里の部屋は物の配置が変わっていた。 「一時期おばあちゃんがいたのよ」  四年半前よりもだいぶ太った母親が、豆大福を片手に言う。  その祖母も今は特別養護老人ホームに入っている。 「月に一回、レンタカーを借りて顔を見に行くの。パパの休みが多くなって助かったわ」  何も聞いていないのに語り続けるのは母親の才能の一つだ。そのおかげで明里はすっかり口数の少ない女になってしまった。  父は仕事でいない。  説教か無視か、とにかくお怒りの母親がいると思って体を固くしていた明里は、玄関で出迎えてくれた母親を見て拍子抜けした。  母親は普段の暢気な母親だったのだ。何か不意打ちをしかけてくるつもりなのかとも思ったが、そうではないようだった。そもそも彼女は腹芸ができない。  大福を食べ茶を飲む。その間に話をする。 「何年働いた?」 「六年かな……」 「ふぅん。まぁ、いいんじゃない」  何がいいのかは分からないが、母親からしたら及第点だったらしい。未だに明里は彼女の基準を理解できない。 「お茶おかわりする?」  急須を持って母親が立ち上がる。  明里は特に飲みたくもなかったが、飲もうと思えば飲めないことはない。とりあえず頷く。それがこの場での正解に違いない。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加