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体は従順だ。大福でも茶でも、いくらでも胃袋に収めてくれる。
だが、明里はもう疲れ始めている自分に気付いていた。
(ママのそばにいると私は、必ず正解を探してしまう)
冷たくなった緑茶を飲み干しながら、嫌だな、と思った。
感受性が死んでいても、薬漬けでも、これだけは変えることができない力関係だった。
幼い頃からの刷り込みだ。もはや明里にはどうすることもできなかった。この綺麗に掃除されたマンションの一室にいる限り、明里は母親に逆らうことが出来ない。母親の地雷を踏まないよう気を付けながら、母親の機嫌が良いことを祈り続ける日々。
この四年半、智樹との生活が幸せだったわけではない。しかし少なくとも智樹との関係は、母親とのものに比べれば、随分と対等なものだった。
今更、思春期の子供のように抑圧される日々には戻れない。
(それだけはイヤだ)
はっきりとそう思った。母親の地雷を踏んだとしても、縁が切れて天涯孤独になったとしても、実家に戻ることは断ろう。
そう決めて、顔を上げた時だった。
母親がキッチンから居間に戻ってくる。不自然に体を傾けて、左脚を庇いながら。
明里が目を丸くしていると母親が急須をテーブルに置き、いかにもしんどそうに椅子に身を沈める。
「股関節」
股関節が何だ、とは思わない。長年の訓練のおかげで、母親が言いたいことは大体分かった。
「痛いの?」
「ふとした拍子に痛みが出てね、病院に通ってるんだけど、骨が変形してるらしいのよ。加齢で」
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