ゾンビの肉、女神の骨

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 母は茶を一口すすり、続ける。 「歩くと痛くて。今はパートも辞めて、買い物もほとんどパパにお願いしてるの」  明里の中で何かがぐるりとひっくり返った。それ程の衝撃だった。  父がいないと困るといった趣旨の言葉を、母親が明里の前でこぼすのは初めてだった。  明里の父は真面目に働くが、出世とは程遠いタイプで、リストラも経験している。母親はそんな父を男として野心が無い、だめな人だと子供の前で罵ってはばからなかった。  そんな母が、今や父がいないと買い物もできないと言う。  明里は罪悪感にかられた。  自分だって、この四年半戦ってきた。ボロボロになるまでやってきた結果が現在だ。  だが、それにしたって、あの気丈な母親がこんな気弱になってしまう程、放っておいてよかったのだろうか。自分がもしそばにいたら、もう少し早く母親の状態を見極めていたら、母親はここまで老け込まなかったのではないだろうか。  若い頃の母は美しく強かった。  小さい頭と華奢な体を持っていて、Aラインのロングスカートが抜群に似合った。  行きつけのパン屋の主人からいつもバイトに来ないかとナンパされていたというのが彼女お気に入りの苦労話で、明里はその話を耳にタコができるほど聞かされて育った。  そんな母も今やでっぷりと太り、脂肪のおかげで皺は少ないものの、目の下はぶよぶよとたるみきっている。  股関節を庇いながら太い胴回りをゆすって歩く様はどこかペンギンを連想させたが、そこに宿る魂はそんな可愛らしさとは無縁だ。  今も昔も明里にとって母親は大いなる支配者だ。この立花家のすべてを牛耳っている。  明里は彼女からの愛情に飢えていた。それを得られないがため、裏返しに恐怖を感じているのかもしれない。
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