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明里の罪悪感は無論、愛の方へ根差している。
あの華やかな女王が、マンションの一室に一日中こもって晩年を過ごすなど、明里にとってあってはならないことだった。
そのような事態になっていた事にも気付かず、ゾンビになって現世をふらついている自分を罪深く思った。
母にはいつまでも傲慢で独裁的であってほしい。そして美しくあってほしい。そう願うのは刷り込みによるものなのか、純粋な女としての憧れによるものなのか、明里自身判断がつかなかった。
母親が股関節が悪いと告白した瞬間から、明里は実家に戻ることを決めていた。悩んだり嫌がったりしていたことが嘘のようだった。
もう結婚できる気もしない。父と母親のそばにいて、二人を老後まで見守ろう。そう思った。
母親への恐怖心が無くなったわけでは無い。けれど今の感受性が弱っている自分と、肉体的に弱っている母親なら、それなりに上手く行くのではないか、そんな楽観があった。
「駅前の西友で布団買ってくる」
明里が湯飲みをテーブルに置くと、「あらそう」とだけ母親は言った。
ただいまとかおかえりとか、そんな大仰な儀式もなく、明里は実家に戻った。
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