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若い山鳩は相変わらず右に左に首を傾げて何か考えていたが、再びフクロウに質問した。
「皆既月食の暗闇でカルムが遠吠えして私たちの魂がシャッフルされたら、それまでの記憶はどうなるのでしょう?もし私が急に人間の猟師になってしまっても・・・とても仲間の山鳩を撃ち殺すことなどできません。」
フクロウは大きな丸い目の視線を月に向けたまま、こう説明した。
「心配には及ばぬ。たとえ魂がシャッフルされても、そのことに誰も気づきはしない。今まで通りの自分を生きているつもりになっておる。過去の記憶は体のどこかで息を潜めておるだけじゃ。その記憶は原始的な本能として作用を果たす。働き過ぎる者には休息を。優し過ぎる者には厳しさを。さみしがり屋には明るさを。怠け者には活力を。わかるじゃろう?そのためのシャッフルなのじゃ。より良き世界に導くためのバベルの奇跡じゃ。」
ドクツルタケは真っ白な顔を真っ青にして、フクロウに尋ねた。
「それじゃ聞くが、そもそもオレがキノコなんぞに生まれてきたのは、過去の行いの結果だとでも言うのか?自由に飛べる羽があったら何か悪さでもするってのか?悪知恵の働く人間だったら、とんでもない犯罪を企むとでも思われたか?」
フクロウはチラリとドクツルタケを見やったが、何も答えなかった。
フクロウが答えるまでもなく、そこにいた命あるものは皆、それぞれに大自然の掟を理解したのだった。
「果たしてカルムは現れるだろうか?」
「フクロウの言ってることは本当か?」
「あのカツラ、本当に千年以上も生きてきたのか?」
「千年以上、生きてきたとして、途中であのカツラに入った魂ってのは、どんな魂だろうか?」
「ドクツルタケが言うこともマンザラでもないぞ。俺たち、余程のワルだったんじゃねぇのか?ハッキリ言って、キノコとして生まれるなんて牢獄にブチ込まれた人間より最悪じゃないか。脚も手も羽もなく何一つ自由はない。」
「べらべら自由にしゃべってるじゃねぇか!働きもしないで、そんだけ自由に言いたい放題ぬかしおってりゃ世話ないよ。」
「ぁんだとぉ~?黙って聞いてりゃ調子にノリやがって・・・」
キノコたちはまた、ガヤガヤと話し始めた。
不安と期待が交錯し、とても黙ってはいられなかったのだ。
月は既に半分以上、姿を隠していた。
辺りは深い藍色の闇に覆われてきた。
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