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キノコたちが一匹狼カルムの話で盛り上がっているうちに夕暮が迫って来た。
山の端から見事な満月が悠々と上り始めた。
ヒトヨダケの傘はいよいよ黒ずんで、腐った傘の先からは黒インクのような液体が滴り始めた。
ヒトヨダケは溶けゆく命の切なさに悶え苦しみながら叫んだ。
「ああ・・誰か・・俺に希望をくれ!どんな希望でもいい。この世に生きた証となる明るく確かな希望を!たった1分でもいい。希望にあふれてみたいんだ。素晴らしい希望を持ち、幸福な気持ちに包まれて天国へ行きたい。」
すると意地悪なドクツルタケは大声で笑った。
「ぎゃはははは・・・アホなことをぬかしやがる。たかがキノコの分際で希望を持ちたいとは、思い上がりもはなはだしい。生きものの頂点に君臨する人間でさえ、希望にあふれた幸福な気持ちで天国へ行けるヤツなど滅多にいないというのに。たった一日限りの短い命しかないキサマが・・・とりわけ醜く悍ましい姿のキサマが・・・どうして希望などという言葉を口にするのだ?恥を知れ、恥を!」
ドクツルタケの口汚い罵りの言葉を聞いた、心やさしいシイタケは、ヒトヨダケの気持ちを思うと居ても立っても居られなくなり、涙声で熱弁をふるった。
「命が少しばかり長いとか短いとか、そんなこと、命の尊さと何の関係もありませんわ。人間が希望を持っていなくたって、私たちキノコが希望を持つことは自由です。ドクツルタケさんが、ご自分で希望を持ちたくないなら持たなければいいのです。それはドクツルタケさんの自由です。けれど自分の考えを他の方々に押し付けることは精神的暴力です。希望がほしいと望むヒトヨダケさんの志は立派だと思います。サルノコシカケ爺さんが、どうしても狼に何も尋ねて下さらないというのでしたら、私が勇気を出して尋ねましょう。たとえ私は狼の怒りにふれ八つ裂きにされたとしても悔いはありません。それが皆さんの希望になるのなら、どんなことでも致しましょう。」
キノコたちの間から、ドッと歓声が上がり拍手が巻き起こった。
「シイタケ万歳!」
「よく言った!シイタケさまに乾杯だ!」
「僕の尊敬するシイタケねえさん。さすがだ。愛は地球を救う!」
キノコたちは口々に、シイタケへの賛辞を述べながら、興奮して皆それぞれに胞子を降らした。
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