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「ねえ、私、あの子知ってるわ。」
『あの子?矢野のこと?』
パッと隣に顔を向けると、夏帆さんは漫画に出てくる探偵のように指を顎に当て唇を尖らせている。
「うん。どこかで見たことあると思ったら…。仲良い大学時代の友達の、元カレだ。」
『矢野が?すごい偶然。それにしても、よく覚えてますねそんなの。』
すごい記憶力だ。
普通、友人の元恋人なんてインパクトがあった人以外覚えていないだろう。
「酷い振られ方して、めちゃくちゃ愚痴聞いてたから覚えてた。写真も見てたし。」
『そうなんだ…?』
知っている、と言ってもどうやらポジティブな方向ではないらしい。
矢野の過去の恋愛になんて興味はないし聞いてしまうのは悪い気がしたが、夏帆さんは話を続ける。
「それがさあ…てか、こんな話響子にするモンじゃないかもだけど…。」
どうして、少し苦そうな顔をするのだろう。
ふと疑問に思ったが、その答えはすぐ後の彼女の発言にあった。
「あの子、_______。」
この時の夏帆さんの声は小さいものだったのに、発されたモノがあまりにも強烈で、一言一句漏らすことなくストレートに耳を貫いた。
「好きになれない、って振られたらしくて。付き合っててなんだそりゃって感じだけどさ〜。」
他人事、芸能人のゴシップでも話すときのように薄っぺらい感想を述べた夏帆さんは、困り眉を作って謝罪を付け足す。
「ごめん、同期の情報ペラペラ喋っちゃった。聞かなかったことにして。」
表情をコロコロと変える彼女に対して私はというと、何も言えぬまま反応出来きないでいた。
それなのに、ざらりとした耳障りがする発言だけがいつまでも脳内に濃く残った。
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