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「うーん、入社当初は思ってました。自分でアトリエ持つんだーって。でも今はここが楽しくて…。iriaで好きなもの作れるくらい出世するって方が今の目標に近いかもですね。」
ああ、そうなんだ。
だからこそ、有馬さんの答えが嬉しく思った。
私たちの憧れである彼が、本当に楽しそうにiriaの仕事を語るからだ。
「それもありますね。iriaくらい大手で好きなもの作るってことは、それだけ多くのユーザーに届くってことだし。」
かっけえなあ、と付け足し、アトリエワン代表が顎に手を当てて頷いた。
「いいなあ大手企業…福利厚生…。」
夏帆さんはわざとらしくそう呟いて、周りの笑いを誘う。
私もつられて笑いながら、シャンディーガフをグググと体内に流し込んだ。
汚れた男女の関係は別にして、私はこの人とずっと一緒に働きたいと思う。
有馬さんの仕事を盗み、この人の元で成長してゆきたい。
それはきっと、矢野も。
ほろ酔い状態だからだろうか、仕事に対するパワーがメラメラと湧き上がってくるようだった。
しかしこの小さな闘志は、誰かが発した一言で、ピリッと形を変えた。
「有馬さん、ご結婚ってされてましたっけ。」
正しいリズムで動いていた心臓が、ほんの少し、揺れる。
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