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中学生の頃にした触れるだけのキスとも、大学生の頃にした相手を喰うようなキスとも違う、矢野との時間。
彼の唇が、器用に私の上唇を挟んで甚振る。
『っ、』
___読み違えたのかもしれない。
矢野のキスは、ある種の中毒性が、あるらしい。
優しいのに、焦ったい。
これだけ心臓を激しく動かすのに、決して奥には踏み入ってくれない。
弄ぶようなキスに、背筋を震わせた。
動揺する心に反して、下腹部がキュウキュウと期待を始めた。
このまま手が首を撫で、シャツの中に忍び込む。
そして…
そんな妄想ばかりを捗らせて耐えられなくなった私は、受け身だったキスの主導権を奪おうと身体を矢野に擦り寄せた。
これは、もっとして欲しい、の合図。
「_、」
しかし、意に反して矢野の顔は私からゆっくり離れていってしまった。
『あ…。』
「キスで満足。おやすみ。」
『!?』
満足…?
私はこれだけ昂り期待しているのに…?
そんな私の赤らめた表情も、この暗い部屋では伝わらないのだろう。
矢野はくるりとこちらに背を向けて、なんの未練もないかのように布団に潜った。
ほっぽり出された熱だけが宙ぶらりんになっている。
男のベッドにいて、黒レースの下着を見られることも触れられることもないまま、背中合わせで眠るというのか。
『…。』
心がざわめく。
今までの男の人と違う感触がする。
どうしてなのだろう。
私はこのいつもと違う違和感の正体がなんなのか、分からないでいた。
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