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それからと言うもの、矢野は度々私を誘うようになった。
今までふしだらな遊びに使っていた金曜の夜に、矢野の一人暮らしのマンションに訪れる、というのが2回も3回も続いた。
『お邪魔しますー。』
「ういー。」
きっかけは半ば脅しであったが、今では重なる逢瀬が苦ではなくなっていた。
軽く夕食を済ませ、コンビニやスーパーでつまみを買い部屋に行き、性別を感じさせない付き合いは、どこか心地よくもあったのだ。
しかし、それはベッドに入るまでの話。
矢野は、私に対し何もしない。
シャワーを借り同じベッドを借りるのに、あの日と同様、何もないのだ。
キスすらも、初めて泊まったあの日あの1回だけだった。
矢野とそういう関係になりたいわけではないが、同じベッドに入り背中に男の体温を感じるのに欲求を発散出来ないのは、どうにももどかしい。
セックスが好きな私にとって、この時間は物足りなさを溜めていくだけだった。
最近、シていないし。
ここ数ヶ月相手は有馬さんしかいなかったし、最近は矢野の目を気にして少し避けがちになっていたから。
晴れない欲求を大きなため息と一緒に吐き出す。
すると同時に、携帯がテーブルの上で音を立て震えた。
___久しぶり
___今晩うち来ない?
メッセージの通知音を鳴らしたのは、有馬さん。
社用携帯じゃないところで行う個人的なやり取りは、久しぶりのものだった。
『…。』
私の心はこんなにも弱いのか。
冷静な判断を、と思うのに、身体はもう期待を始めている。
___行きます
理性なんてものはあっという間に崩れ去り、すぐに既読をつけて有馬さんからのメッセージに返信してしまった。
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