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『ねえ有馬さんって、好きな人いるんです?』
声になった自分の言葉を聞いてから、後悔する。
深い意味は無いのに、それはとても重くてイヤらしかった。
好きな人の有無なんて、セフレが聞くなんてタブーなはずだろう。
そんな初歩的なこと、学生の頃に学んだはずなのに。
「なんてこと聞くのさ。」
有馬さんはキョトンと大きな目をさらに丸くして、質問で返す。
決して困った顔しないところが彼の優しいところであり、私に深入りしてない証拠であろう。
『いや、そういえば知らないなって…。』
語尾がどんどん小さいものになるのは、自然にと次の話題を探すからだ。
しかし有馬さんは、
「世良ちゃんのこと、好きだよ。」
だなんて、ふざけたことを躊躇いなく言う。
やはりこの人は酷い人だ。
何回も抱いた女に告白することもなく、簡単に薄っぺらい好きを吐くなんて。
『…綺麗な嘘ありがとう。』
だから、私も丁寧に笑顔を作って返事をしたが、嫌味のようになってしまった。
悔しい。
馬鹿みたいに手放しで喜べないことも、「じゃあ付き合ってよ」と怒れないことも。
「ひどい、嘘じゃないのに。」
なんだかムカムカモヤモヤと心の中が汚れていくのが分かる。
私はまだまだ子供なのかもしれない。
誰も得しないこんな話は早々に切り上げて、もう全然眠たくもないのにベッドに潜り込んで目を閉じた。
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