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昨夜は結局夜更かしを続けてしまい、睡眠時間3時間程度しか取れなかった。
気怠さが全身を薄雲のように包んでいる。
『〜、』
ノートパソコンに少し顔を隠して、口元に手の甲を当てこっそりと欠伸をする。
「眠そう。有馬さんちからの出勤だったりして。」
どきり___、思いがけず振ってきた声に心臓が小さく鳴った。
声をかけてきたのは矢野だ。
どうやら欠伸をするところを見られていたらしく、わざと私の動揺を誘うような台詞をぶつけられた。
会社では、矢野と一緒にいる時間がぐんと増えた。
と言うのも、同じ商品の企画を担当することになったからだ。
今日は新商品に対するコンセプトの擦り合わせと市場調査のため、3Fのミーティングルームに篭りっぱなし。
しかも、2人きりで。
『馬鹿言え。矢野のせいで変なことは出来なくなったよ。』
揺れた心臓は内部に隠したままで軽口を叩く。
同じ轍を2度は踏まない。
心づもりをしていれば、矢野の悪質な揶揄いにだって動揺することはなかった。
『続きは明後日にしよう?話詰めれるようにラフ用意しておくね。』
余計な話は強制終了させて、5Fの自席に戻ろうとノートパソコンを閉じる。
しかし、矢野はその行動を許してはくれなかった。
「世良は、有馬さんのどこがいいの?」
『何、急に…。なんかキモい。』
「いいじゃん。気になる。」
社内のゴシップは確かに面白いのだろう。
しかし、矢野が本当に私と有馬さんの関係に興味を持っているようには思えなかった。
一緒に働いて3年目になるが、他人のいわば厄介ごとに自ら首を突っ込むタイプの人間にはどうしたって見えないのだ。
何故?という疑問は拭えないままだが、弱みを握られているため強くも出れず、言葉を濁しながらその場をやり過ごす。
『良いっていうか…ほら、付き合ってるわけでもないし。』
「それは、好きじゃないって言ってるの?」
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