2.我慢するのが正しいの?

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「っあ、響子!」 『夏帆さん。』 私に気付き花が咲いたような笑顔を見せたのは、普段は見ることのないオフィスカジュアルな装いをした夏帆さんだった。 コラボシリーズの商品化打合せを行っていたらしい。 「今日急遽行くことになったよーってLINEしたんだけど、返事なかったから会えないのかと思った。今終わって帰るところ。」 『LINE見てなかった…。会えてラッキーです。』 「ご挨拶よろしいですか。」 矢野が話に割り入る。 先程までと打って変わって対人モードになった彼は、手帳の隙間から名刺を取り出して夏帆さんに手渡した。 「お世話になります。企画室矢野です。アトリエワンの…」 「お世話になっております。アトリエワン広瀬です。響子…世良とは古い付き合いなんです。すみません引き止めちゃって。」 ニコニコと爽やかな外面で交わされる会話が少し面白く感じるのは、2人の内面を知ってるからだろう。 『そう、大学の先輩で…。私がプロダクトデザイン学科で、夏帆さんは建築デザイン学科の先輩だったの。』 「そうだったんですね。私も建築系学科卒で…、そちらの大学の建築デザイン学科と交流ありました。下の代にはなりますが。」 「いろんなイベントありましたもんね!そっちの教授厳しいで有名だし覚えてます…。今後ともよろしくお願いいたします。響子の世話、してやってください。」 『ちょっと夏帆さん…。』 「はい。こちらこそよろしくお願いします。」 ふふ、と笑う彼の笑顔は今まで見たことのないものだった。 意地悪く口角を上げるでもないし、先程私に見せた柔らかいものでもない。 まだまだ知らない顔があるのだなと当たり前のことを改めて感じる。 「ねえ響子、下まで送ってよ。」 『あ、いいですよ。矢野先戻ってて。』 矢野が下向ボタンを押して扉を開けてくれたエレベーターに乗り込んだ。 1Fへと向かうエレベーターの中で2人になった途端、愛想を振りまいていた夏帆さんの表情がガラリと変わった。
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