3.好きの形はひとつだけ?

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「そんなこと言ってない、」 『そんなの…、悲しいよ。』 膝の上で握った拳にポタポタと涙が落ちたのを見て、自分が泣いていることに気付く。 何故私が泣いているのかは分からないくせに、この涙は私に宛てたものではなく、矢野に向けたものだということは分かった。 泣くのは卑怯だ。 相手はこれ以上何も言えなくなってしまうだろうから。 矢野の話を聞いているはずの私が、それを制するようなことをしちゃいけない。 しかし頭ではそう思っているのに、行動は追い付かずに涙は零れるばかり。 「引かないの?」 『引いてるよ。好きな人と出来てる女を落としにくるなんて遠回りなこと。』 「そっちじゃないじゃん…。」 矢野が髪を雑に掻いて、息を吐くと同時に肩を落とす。 そっちじゃない、と矢野が指すもう片方を、私はなんとなくで察する。 男の俺が、と言いたいんでしょう。 矢野は男で、有馬さんも男で、その恋愛の方程式はマジョリティではないのかもしれない。 その恋愛は、「引く?」と先に自分で言ってしまうような扱いをするものらしい。 同性愛、なるものをテレビやTwitterで見かけたことはあっても、実際に出会ったことはなかった。 『別に、引かない。有馬さんカッコいいし。』 これは、本心。 私と違うことや、大勢と違うことは紛れもない事実。 しかし、違う=引く、という考えは浮かばなかった。 しかも、有馬さんは良い男だもの。 いいなと私が思うように、いいなと矢野が思っていたって何もおかしくはないよなと、そんな風に思う。
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