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あの夜を一緒に過ごしても、会社は以前までと同じ顔をして仕事を進める。
それは、矢野も私も同じだった。
矢野からの告白を聞いたあの日から、私たちは何も変わっていない。
そこらの男みたく涙を拭ってくれることはなかったが、何も知らなかった時と同じようにシングルベッドで背中を合わせて眠りについた。
『それ、本気で言ってるの?仕様変更って。』
出社してしまえば、私たちにプライベートで何があろうと関係なかったし、
私はというと、矢野に対し怒りを孕んだ言い方で詰め寄っていた。
「だからそれだとコストオーバーで…。」
『でも、材の変更は最初のコンセプトを覆すことだよ?』
原因は、今日の午後イチにあった商品部ミーティングでの新企画プレゼンが、上手くいかなかったことにある。
しっかりと用意はしていたし、てっきりこのまま進められるものだと思っていたのに。
3年目、余裕が出てきた上での驕りだったかもしれない。
___それ、本当にうちの会社で作る意味あるの?
突きつけられたのは、ド直球な赤信号。
部長たちのGOサインが出ないと、商品化を進めることは出来ない。
私たちは今後の動きを練り直すことを余儀なくされたのだ。
「利益出さなきゃ、作る意味はないはないだろ。」
『良いものじゃなきゃ、作る意味ないでしょ。』
「俺らはメーカーの社員だし、世良はメーカーのデザイナーだろ。アーティストじゃない。」
午後4時から始まった矢野との新企画についての打合せは、定時である5時半をとうに過ぎてもまだ終わる様子はない。
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